セメコとドラゴン(その4)


「ゆっ、許してくれ、俺たちが悪かった。笛も無事だ。だから、なっ。頼むよ」

「ひいいいい。悪かった」

「待て! お前ら。本当にドラゴンになるわけないだろ! 俺は騙されんぞ全裸野郎」 


 ヒゲ男は立ち上がり、剣を俺に向けた。


「ちょっ、剣はやめよーぜ。武器は卑怯じゃん」

「そんな姿の奴に言われたくねーよ!」

「いや、そうなんだけど、ほらっ、剣だと刺さったらシャレにならな――」

「うるせー!」


 奴は、剣を俺に向けたまま突進した。

 えっ、ドラゴン怖くねーのこいつ。


「ちょっ、うそっ! くるな! マジくるなって!」


 ――ザブッシュッ!


 足に剣が突き刺さった音がする。

 俺はその場で転げ回った。


「いだあああああああああああああああ!」


 ドシーンッ、ドシーンッ、と地面からすさまじい音がする。けど、それどころじゃない。

 こっちは足刺されたんだぞ。

 痛くて死にそうなんだ!

 痛くて死にそうなんだあああ! …………あれ?

 痛くねーぞ?

 冷静になって、足を確かめる。

 傷口がない。あれ? 絶対、刺さったと思ったんだけど……?


「……バッ、バカな!」


 ヒゲ男が剣を持ったまま驚いている。

 いや、もはやヒゲ男が持つは剣と呼べるモノではなかった。

 つかから先の刀身がなかった。

 いや、折れていた。それも、ポッキリと。

 俺の身体ってそんな硬いのか。


 俺がそう思ったとき、氷のように冷たい音色が辺り一面を支配した。


「この音……」


 セメコを探す……。

 いつの間にか俺の後ろにいたセメコは、やっぱり笛を吹いていた。

 

「これもその笛の能力か?」

「うん。これはドラゴンの鱗を硬質化にする音色。鋼のように硬くなるみたい」

「ソッ、ソウナンダー」


 ぐあっ、恥ずかしい。

 鋼のように硬くなるだとー。

 じゃあ、刺さってないのに転げ回っちゃったの俺?

 いやああああああ!

 穴があったら入りたいいいいい!


「いだあああああああああああああああ! だって」


 セメコは俺のマネをして転げ回った後、ゲラゲラと腹を抱えて笑いだした。


「私転げ回るドラゴン初めて見た。クスッ」


 セメコが笑うと、それにつられて、盗賊たちも笑いだした。


「プッ、あいつめっちゃ叫んでたぜ」

「ニワトリ並みに臆病なドラゴンだな」

「あーあ、あいつのせいで地面がボコボコだよ」


「やめろーお前ら! なんだ、全員で善良なドラゴンをイジメやがって! なんで、俺が攻められてんの? 精神的に」


 すると、また笛の音が聴こえる。

 今度はとても優しく、温かい音色。

 その音色は、とても心地よく、こうやって笑ってるのが一番いいと教えてくれる。


「おいっ、ドラゴン。聴こえるか?」


 ヒゲ男に突然話しかけられ、ビクッと驚く。


「そんなビビるなよ。お前のほうがデケーのに。お前、本当にキ○タマついてんのか?」

「ビビってねーよ!」

「そうかい。お前、服ないんだろ? こいつの上着とズボンでよければやるぞ」


 ヒゲ男はそう言って、ダサい服の男を指差した。


「えっ、なんで急に……」

「いや、俺たちも酷いことしちまったしな。その罪滅ぼしさ」 


 男の目はとても穏やかだった。

 これも笛の能力か?

 それとも、ただ単に美しい音色の雰囲気にやられただけか。

 どっちかはわからないが、こうして笑い合うのがやっぱり一番いい。


「わかった。ありがとう助かるよ。こっちもあの女が失礼なこと言って悪かった」


 ドラゴンと人間。お互いに手を伸ばす。

 俺は指の腹で軽く握手を交わした。

 






「じゃあなー。お前ら盗賊には気をつけろよー」

「そっちこそ、ドラゴンには気をつけろよ」


 盗賊たちは手を振ってさっそうと去っていった。

 笛の能力で人間の姿に戻してもらった俺は、ブカブカの上着と真っ赤なズボンを着用。

 これで、不安だった全裸冒険も阻止できた。

 

「さて、俺たちはどうするんだ? もう日本にも帰れないんだろ? これからなにするんだ」


 あれから、ずっと笛を吹くセメコに尋ねた。


「タツヒコは私のお母さんを探すの」


 セメコは、ニッコリと笑う。


「えっ、なんで?」

「人間に戻したらなんでもいうこと聞くんでしょ」

「うっ……」

「これからよろしくね。タツヒコ」

「まあ、他にすることもないし、約束しちまったからな。とりあえずよろしく」


 俺は握手をしようと手を差し出す。

 ガバッ!


「――!?」


 セメコは握手ではなく俺に抱きついた。

 突然のことに、言葉がでない。


「コレ……? 握手か?」

「助けてくれたお礼。タツヒコ、すっごいカッコよかったよ!」


 こうして、セメコとの刺激的な冒険が始まるのであった。


「あと、その服ダサいよタツヒコ」

「……。とりあえず、服買いてーな」

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