うん、負けだね。

卯野ましろ

うん、負けだね。

 とある学校の図書委員である男女二人組は、放課後に学級文庫の整理をしていた。


「あのさ」


 作業中、男子が口を開いた。


「なあに?」

「今から君に色々と質問していくね。どうして? とか何で? とか聞いちゃダメだよ」

「うん」

「誕生日は?」

「4月14日」

「血液型は?」

「A型」

「好きな食べ物は?」

「お寿司とケーキ」

「好きな色は?」

「ピンク」

「好きな動物は?」

「猫」

「好きな……」


 質問は長々と続く。作業が終わりそうになったところで、男子はパンッと合掌した。


「はい! 君の負け~!」

「うん、負けだね」

「へっ?」


 女子の返しに、男子は目を丸くした。


「な、何だよ……」

「ん?」

「引っ掛かんないのか……」

「どういうこと?」

「もっ、もう終わったから良いよ!」

「そっかぁ、終わりか~。じゃ、もう聞いても大丈夫だよね」


 最後の一冊を本棚に入れながら、女子は言った。


「どうしてあなたは私にたくさん質問したの?」

「え!」


 男子は予想外の展開に困惑している。そんな男子に構わず、ずいずいと女子が迫ってくる。


「あなたの顔は何で真っ赤なの?」

「い、いやっ……その……」

「図書委員の仕事中に、コソコソと何をメモしていたの?」

「え、えーと……ごめんなさい……」


 ずいずい。ずいずい。

 迫り来る女子に男子はドキドキ。


「たっ……頼むから勘弁してくれよ! 何でもするから!」


 そこでピタッと女子の接近が止まった。


「本当に何でもしてくれるの?」


 男子は「しまった!」と思ったが、もう遅い。


「じゃあ私の質問に絶対に正直に答えてね」

「わ、分かりました……」

「あなたは私のことが好きなの?」


 うん、負けだね。

 オレの。


 男子は心の中で呟いてから、女子の質問に返答した。




「あのさ」

「なあに?」

「好きって10回、言って?」

「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」

「せ、迫りながら言うな~っ! もう10回越えているし!」

「熱あるの?」

「ねーよ!」

「なら良かった。では本題」

「お、おう! ではオレが今、君にして欲しいことは?」

「右肩についた糸屑を取る」

「……はぁ~……。またこのパターんっ!」


 項垂れた男子の唇に、ふわりと柔らかいものが当たった。


「うふふ」

「……あぁ~っ!」


 どうやら彼は、いつまで経っても彼女に負けっぱなしのようである。


「今日はオレンジデーだね」

「何だそりゃ?」

「愛を確かめ合う日。だからあなたもキスしたかったんだね」

「はっきり言わないでくれよ……」

「というか私の誕生日なんだから、回転寿司でも奢ってよ~」

「猫のぬいぐるみ、あげただろー! ピンクのリボンがついたやつ……」

「何でもするって言っていたのに」

「いつの話だ!」


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