45:勇者の過去(6)はじめての命令
・第一に玉座の位置を正確に把握すること。
・第二に<現在の加護持ち>と<白い馬>を見つけること。
・第三に<白い馬>にこの<一つの案>が問題ないかを聞くこと。
・第四に、問題がなかった場合は、<加護持ち>にこの協力を依頼して
もし問題があった場合は・・・・もう一度、別の方法を検討すること。
オレは最初に自分でつけたこの世界でやるべき優先順位を思い出しながら、心の中を整理する。
(大丈夫だ。いまここは<玉座の間>。つまり第一の目標は、クリアしたということ・・・・。
第一の目標さえクリアすれば、もう王城にいる必要などないないんだ。
暗殺なんかする必要はない)
今すぐにでも転移魔法を発動して、この場から消え去り、第二の目標に移ることが可能なことを確かめ、心の中で息を吐きだした。
だいぶ冷静になった。
第二以下の目標はできれば協力はほしいものもあるが、この帝王に従うふりなどしなくても、クリア可能なのだから。
勉強する過程で宰相モレノ・ シュテルンから<現在の加護持ち>の名前は聞いてあるし、
正確な居場所は分からないが、どうやらレイ皇国を拠点に冒険者をしていることも把握済み。
さらに<白い馬>に関しても、こっそり兵士たちに聞いたところ、有力情報をつかんだ。希少な馬のためあまり見ないらしいが、様々な国で活動するA級冒険者・アルフレッドが騎馬にしているから、アルフレッドさえ見つければ<白い馬>とも会えるのだという。
アルフレッドは、かなり派手な人物だから、冒険者ギルドに問い合わせれば、おおよその場所は分かるらしい。
オレは帝王に向ける顔を、驚愕の顔から少し自信のなさそうな顔へと変化させる。
「本番ために・・・一人暗殺・・・・・・ですか?まだ一ヶ月経っていないので、少し不安なのですが、大丈夫でしょうか?」
そんなことを言うオレに帝王は一瞬眉をひそめた。
だが、すぐさまいつもの胡散臭い笑みを貼り付ける。
「あなたの実力なら、大丈夫です。転移は有用ですからね。この国の影・・・まぁいわゆる暗殺などを得意とする兵・・・その中でも選りすぐりの男もつけますしね」
影、という不穏な言葉に日本の一般大学生では感じられない国家の闇を感じつつ、少し嬉しそうな表情をするように努める。
「そんな方をつけてくださるんですね!安心しました」
「ええ。それに、暗殺対象はまだ成人もしていない子どもです。貴族の嫡男ではあるのですが、隣国は牧歌的な風土ですから、そこまで普段から護衛もいないですよ」
「子ども・・・ですか?」
思わず、演技を忘れ、けげんな顔をしてしまった。
「その子供、ターゲットの女と同じ魔法属性の使い手でしてね。まぁ所詮小さい国なので、大したことはないのでしょうがその国で<魔法の天才>と言われているので、ちょうど暗殺の練習になるでしょう」
ぞっとした。そんなどうでもいい理由で子どもを殺そうとしているこの男を。
この世界はもしかしたら、こいつのようなヤツがほとんどなんだろうか・・・・と頭をもたげ、<いや、違う>と首を振る。
城であった兵士たちは気のいい人ばかりだったのを思い出したのだ。
「なるほど・・・・その子をこの国の影・・・と一緒に暗殺すればいいんですね?準備をする期間はもらえますか?」
無邪気な顔を作りながら帝王に尋ねる。
「ええ、そうですね。子どものいる<レイ皇国>まで距離がありますから、できれば早めに出立してほしいですが・・・・1週間ほど準備の期間を設けましょうか。
ですが・・・・・子ども・・・・<フレデリック・フランシス>の暗殺はお願いではなく・・・・<命令>ですよ?・・・・・勇者様」
その帝王の<命令>という言葉を聞いた瞬間、オレの腕輪から静電気が発生し、胸を駆け抜けた。
通常なら腕輪の反応をおかしいと思うはずなのに、その時、オレはあまりそれに気を取られなかった。
だって・・・・なぜなら重大なことに気づいてしまったから。
この世界の知識を学びながら、ずっと違和感を感じていた正体。それに気づいてしまったのだ。
・・・学ぶ度に<レイ皇国>・・・・・・どこかで聞いたことがある国名だな・・・と思っていた。
その違和感が・・・・・・子供の苗字<フランシス>という苗字を起点に、オレの中の知識とつながったのだ。
(もしかして、この世界は・・・・・・・理奈のお姉さんがハマっていた、乙女ゲーム<皇国のファジーランド>の世界じゃないか・・・?)
そうして、気づいてしまったオレは、理奈のお姉さんから聞いた乙女ゲームの知識で<フレデリック・フランシス>がこのままでは死んでしまうことにも・・・気づいてしまった。
乙女ゲームでは、彼の妹<レティシア・フランシス>は12歳の時に大好きな兄が死んだ影響で、王太子に執着しすぎて破滅するのだから。
ゲームは彼女が15歳の時、5大国最弱であるレイ皇国が、5大国最強のルナリア帝国に宣戦布告をされたところから始まったはずだ。
(いまは、そのゲーム前の時間軸ということか・・・・。
もしかしたら乙女ゲームの戦争は、<ルナリア帝国>の<玉座>に<加護持ち>がいない影響でおこったのだろうか?
<加護持ち>不在のせいで、帝国の土地がやせた・・・とか?
・・・・・・まぁ、よく分からないが、いつでも転移で逃げられるんだ。とりあえずレイ皇国でその<フレデリック・フランシス>に会ってみればいいか)
そう思ったオレは、乙女ゲームの中にチラッと登場した<フレデリック・フランシス>の暗殺に出向くことに同意したのだ。
もちろん本当に殺すつもりなどなかった。
この時点では、<隷属の腕輪>による命令の強制力が働いているなんて気づいていなかったのだから。
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