22:鍛錬2日目・朝
翌朝。<南の領地>の城にあるフレデリック・フランシスの寝室。
木目調と白、そして水色というなんとも落ち着く色に覆われたその部屋のベッドで私は目を覚ました。
「あ・・・あの、まだフレド様は寝ておりまして・・・・ま・・・待ってください!」
そんなメアリの悲痛な叫び声でとともに。
しかし、目を覚ましたとはいえ私は前世引きこもりのゲーマー。
当然のように前世は昼夜逆転の生活を送っていたせいか、どうも記憶を取り戻してからというもの朝にめっぽう弱くなった。
だから記憶を取り戻してからの私が起きるのは、早くて、みんなで朝食を食べ始める5分前。
メアリは令嬢の恰好をしていたときは、そんな私に「たった5分で御髪もドレスも整えなくてはいけないなんて・・・」とよく愚痴をこぼしていたものだ。
もちろんドレスを着なくてよくなったいまは、当然5分前などには起きていない。
大体3分前に起きている。
まだ城の中に朝食の匂いが漂っていないことを考えると、いつもに比べて相当早起きをしてしまったらしい。
メアリに何があったか知らないが、目が覚めてしまった。
・・・・だが、普段そんな生活をしている私なので、当然目は開けているが、体はベッドに横たえたままだ。
ああ、もちろん・・・・このまま起き上がる気などさらさらない。
(二度寝しよう・・・)
メアリの叫び声をBGMにそう決意し、目を再び閉じたとき、バンッという音が部屋に鳴り響いた。
それと同時にメアリと一緒に、部屋の前まで来たもう一人の気配が、自室に入ってきたことを<剣聖>時代から使っていた感知能力が告げた。
うろんげに視線だけ扉の方へと向ける。
感知能力でわかっていたが、もう一人の気配は・・・・・・やはりアルフレッドだった。
「ああ?ホントにまだ寝てんのか?」
私を見ながら、そうアメジストの瞳を細めてベッドへと近寄ってきた。
ここは中世ヨーロッパ風の世界。
日の出とともに起きる者が多いから、確かにこんな時間まで寝ている私はちょっと珍しいかもしれない。
アルフレッドが不思議がるのも当然だ。
彼は以前、ベッドに横たわったままの私の腕をグイっと引っ張り上げた。
「おいっ、上官を待たすとはいい度胸だなぁ? 今日は、オレと魔獣狩りだと伝えたはずだが・・・?」
「ええ。覚えてますよ。でも、・・・まだ朝食も食べてないんですが?」
アルフレッドに「自分が上官だ」と言われてから、礼を尽くすようにしている私は、片腕を持ち上げられながらも、丁寧語で彼に話しかけた。
もちろん片腕をあげられたくらいでは、起きるつもりはない。持ち上げられた左腕以外は布団の中だ。
アルフレッドの後ろでは、青い顔で両手を口元に覆ったメアリが突っ立っている。
まぁ、今の私は兄・フレデリックの恰好をしているので、外聞的には問題はないが
内心は(ご令嬢の寝所に、殿方を入れてしまった・・・)と大混乱しているに違いない。
小刻みに震えている。
「ああ?メシは、オレと外で食べりゃいいだろ」
そんなことを言うアルフレッドに、眠気を噛み殺しながら、ようやくベッドから這い出ることにする。
このまま彼をこの部屋に放置しておくと、メアリが心労で倒れてしまいそうだからだ。
ごくりっとどこからか喉が鳴る音が響く。
「・・・はっ。わかりゃいいんだよ」
「着替えたらすぐに行くので、メアリ、アルフレッド殿を応接間にお通ししておいて」
寝間着に手をかけながらアルフレッドと青い顔のメアリを早々に部屋から追い出す。
こうなっては、仕方ないと二度寝を諦めた私は、クローゼットの中から買ったばかりの平民向けの服と冒険者用の防具、武器を取り出し、身に着けた。
そして鏡で自分の姿を確かめることなく、部屋の外へと颯爽と歩きだす。
ふと窓を見ると朝日が差し込んでいた。
講師に難はあるが、ここは剣と魔法の世界。
これから魔獣狩りができることに、私の胸は自然と高鳴なったのだった。
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