16:新たな攻略キャラとの出会い
城の一角、フランシス公爵家・領地軍のために設けられた鍛錬場に足を踏み入れたところで声を掛けられた。
「遅い!」
声の方を見ると、青みがかった黒髪をした冒険者風の男が片手で剣を持って立っていた。
身長は12歳にして160cmはある私より、頭2つ分は高い。190cmはありそうだ。
ガッシリとした体系に、不釣合いなほどキレイな顔をした男だった。
年齢は25歳前後といったところか。
「……」
無言で男を観察していると、アメジストの瞳が細められた。
「世話になったロッド爺の頼みだから、来てやったが、剣も持たずにやってくるとはな」
そう言って、鼻で笑われた。キレイな顔がその下品な仕草で台無しだった。
「フ・・・フレデリック様、昨日聞いた方では?
講師の予定だったロッド元騎士団長は腰を痛めたとかで、代わりの者を派遣するって言っていた・・・」
いつの間に鍛錬場に来たのか、侍女のメアリがこっそり私に耳打ちしてくれた。
「なるほど、あなたが代わりに来た講師でしたか。
失礼した。腕は確かだと聞いています。私は、フレデリック・フランシス。今日から世話になる」
私は1ヵ月で覚えた、付け焼刃の公爵子息としての振る舞いで、男に相対した。
瞬間――――。
ビュッ
喉に剣を突きつけられた。
「フ・・・フレデリック様・・・・ッッ!!」
その横では、急な主人のピンチにメアリが半狂乱になっている。
私もちょっと瞠目した。
男に殺気が全くなかったので避けなかったが、もし避けようと思っても<剣聖>の能力が使える私でも、ギリギリ避けられるかどうかであろう良い突きを放ったからだ。
(へー、代わりっていうから元騎士団長より劣る人物だと思っていたけれど、これは期待できそうだな。それとも、この世界、思ったよりレベルの高い人が多いのかな?)
VRMMOのアクションゲームにハマっていた私は、この男の突きを見て少しワクワクしてきた。
「微動だにしないか。ただ単に動けなかったのか・・・それとも」
そう男が言いつつ、私に左手で殴りかかってきた。シュッという風音が鳴り響く。
反射的に右手で男の手を掴もうとして・・・・・・止めた。
<身体強化魔法>は使えるが、元のレティシアが全く鍛錬をしていなかったせいか、私は自分で思っているよりも腕力がないのだ。
掴んでも止めきれずに、そのまま殴られてしまう可能性がある。
後ろにバク転して男の左手を回避しつつ、鍛錬服に縫いとめられていた宝石を1つ取り外す。そして、男の顔面めがけて、それを全力で投げつけた。
父・コドックが私のために、親ばかを発揮して無駄に宝石をちりばめて作った豪奢な鍛錬服。ゆるくリボンで一つに纏められた白金の髪と合わさって、さながら絵本から出てきた王子様のようだとメアリが喜んでくれた代物、それに縫い付けられた宝石だ。
豪奢過ぎて動きづらいのでもらった時は、全く嬉しくなかったが、このように使えるとは嬉しい誤算である。もっと石を縫い付けてもらおう。
そうほくそ笑んでいると、パシッという良い音が眼前から聞こえた。
私の全力で投げた石を、男が受け止めたのだ。
(すごいッ!この距離で!あの速度の石を受け止めた・・・!!!)
私が男の実力に興奮しているように、男もどうやら興奮したようだ。
「ハハハッ!鍛錬にそぐわない服で来た上に剣も持ってないから、ただの魔法の才能に恵まれただけの小僧かと思ったが・・・・・・お前、フレドリックだったか?
気に入ったぜぇ!!」
そうして、アメジストの瞳をギラつかせて、私に歩み寄ってくる。
乱暴に私の髪をグチャりと撫で回し、私の瞳を覗き込む。
「俺の名前は、アルフレッド・ブラッドレイ。
昔、ロッド騎士団長の元で第三騎士団の副団長を勤めたが、いまは辞めて冒険者をやっている。今日からお前が入団までの1年間はお前の上官だ。
騎士団では、上官の命令は絶対。つまり、今日からお前は俺に逆らうなよ?」
「は・・・はぁ・・・・・・」
黒髪男、もといアルフレッドが私の耳に口を寄せそんなことを言ったが、私は気のない返事しか返せない。
なぜなら、「アルフレッド・ブラッドレイ」という名前に聞き覚えがあったからだ。そうして前世の記憶を手繰り寄せ、思い出した瞬間、青ざめる。
「アルフレッド・ブラッドレイの本当の名前は、アルフォンス・レイっていうの。S級冒険者なんだけど、実は王弟で、隠しキャラで~・・・・・・・」
「キャーッ!またアルフォンスに塩対応されちゃった!でも、カッコイイ~」
前世の姉の言葉がよみがえってきた。
「おいっ。返事はそうじゃないだろ?お前は、俺の部下なんだ」
「・・・・・・」
アルフレッドが何か言っているが、ついつい思考に没頭して無視してしまう。
そうして数秒経った頃だろうか、急に耳にぬめっとした感触がした。
思わず見上げると、顔のすぐ横にいじわるそうなアメジストの瞳があった。
(こいつ・・・耳をなめやがった・・・・・・!!!)
そう気づいた瞬間に、思わず沸騰しそうなくらい顔が赤くなるのを感じた。
いくら淡白な性格といわれていても、私は前世引きこもりの喪女。さらに、今世はまだ12歳だ。
前世の私はもとより、貴族令嬢レティシアだって、男性になめられるようななことに慣れているはずはない。
「ハハハッ!真っ赤だなぁ。そんなんじゃ騎士団でやってけないぜ?」
そんなアルフレッド、いやアルフォンスの楽しそうな声を聞きながら、私は端正すぎる顔を見つめる。
現実ばなれしたその声と顔の良さに、私は「やはりこの世界は乙女ゲームの世界なんだな」と感じずにはいられなかった。
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