13:フレデリックと父の内緒話(1)

レティシアの魔法が披露されてから数時間後―。

王都にある公爵家の屋敷内の一室に「コンコン」というノック音が響く。



「フレド、入るよ」



低音で心地よいバリトンボイスの声が扉の前から聞こえる。

部屋の中で待機していた侍従が、部屋の主であるフレデリックが頷くのを確認。その扉を開く。



「父上、そろそろ来られる頃かと思っておりました」



部屋の中にいるフレデリックが声を掛けると、扉から入ってきた父・コドックは柔らかい笑みを浮かべた。


そして、応対用のソファに腰掛けるフレデリックとその横にある簡易ベッドに横たわるフレデリックの側近候補・ジンを見て、満面の笑顔になる。



「フレドは母様に似て、賢くて優しいな。私が今日ここにどんな用で来るか予想して、ジンも呼んでおいてくれたのか」



いまにも抱きついてきそうな父を見て、フレデリックは苦笑する。



「公爵様、このような姿で申し訳ございません」



隣にいたジンは、コドックが入って来たことで、ベッドから起き上がろうとする。

・・・が、それをコドックに手で制される。



「いや、ベッドに横たわっていなさい。侍医のペストに、まだまだ安静だと言われたばかりだろう?」


「いえ、そういうわけには・・・」


「ジン。君は将来、フランシス公爵家で存分に働いてくれるのだろう?だったら、そのためにも今は身体を休めるんだ。これは命令だよ」



茶目っ気たっぷりにバーントオレンジの瞳を細めて、朗らかに笑うコドック。

その姿には、普段「皇国の鬼才」と他国から恐れられる宰相としての迫力は全くない。



「公爵様・・・・・・」



そんな主の様子にジンは深々と頭を下げ、ベッドに横たわったまま、話を聞く態勢を整えた。



「さて、ここにどうして来たのは分かっているとは思う。君たちが襲撃された件についてだ」



目の前に出された紅茶を一口含み、人払いをすませるとコドックは、フレデリックに怜悧な目を向けて話し出した。


身内に対する溺愛ムードから一変して、能吏としての顔を覗かせる父・コドック。

フレデリックは思わず、姿勢を正す。



「はい、報告が遅くなって、申し訳ありません」


「いや、二人とも重傷だったんだから、遅いのは当然だ。むしろこれだけ早く話せるとは思ってなかったよ。

それに、レティからは先に報告を受けていたから安心なさい。

ただ、レティからの報告だけでは、いろいろどうも腑に落ちなくてな・・・」


「レティは、なんと・・・?」



コドックの話に、フレデリックは訝しげにたずねた。あの襲撃にいた中で一番状況に対応していたのは、レティシアだったからだ。

怪我も負っていないレティシアなら当然、3人の中で一番状況を的確に説明できるはずだ。



「レティは・・・男2人がフレデリックを襲ってきたから、返り討ちにした・・・・・・と」



心底困り気味の様子で喋るコドックに、先を促すようにフレデリックが視線を向ける。


しかし、コドックはその先を話しだす様子はない。



「まさか・・・報告はそれだけだったんですか?」



驚いて目を見開くフレデリック。

コドックは情けない顔をしながら、頷く。先ほどの能吏としての顔が台無しだ。



「いや、簡潔すぎるだろう!!!」



いままで黙っていたジンが思わず叫んだその言葉は、この場にいる全員が思ったことだった。

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