第33話

ワンライのために学校近くの銭湯へ来た俺たち。

結構古い銭湯なんだろうか。

木製の黒々としたロッカーと、使い古されたすのこが時代を感じさせる。


どこで書こうかと見回して、脱衣所の外に畳四畳半ほどの休憩スペースを見つけた。

俺たちはそこに靴を脱いで上がり、ちゃぶ台の上にノートPCを広げる。

そして「書こうか」と示し合わせることもなく、当たり前のように書き始めた。

ここに座るまでに、頭の中にある程度のプロットはできている。


それからしばらく執筆に集中していると、ノートPCを叩く俺たちを他の客たちが異様な目で見ていることに気づいた。

が、こういうのはいつものことだ。

ワンライは時間との闘いであって、視線も意識も他へ向けている場合じゃない。

全部無視することにする。


けれど隣で後ろ髪をかき混ぜる月形には、ついつい視線が向いてしまった。

ここにも浴場の熱気と湯気が回ってきて、彼の頬はわずかに紅潮している。

執筆中の横顔の緊張感も相まって、目を引くものがあった。


なんだかんだで月形は魅力的だ。

どちらかというと小柄な体に、生命力があふれている。


それから30分後――。


「うわー、のど渇いた!」


作品をアップし終えた月形が、ノートPCを閉じて悲鳴をあげた。


「風呂入ってないのに、なんで……」


ぼやく月形に、俺は買ってきたばかりのスポーツドリンクを投げて渡す。


「ここ蒸すからな、汗かいただろ」


っていうか、汗をかいていたのは見ていて分かっていた。

素知らぬ顔で2人分の飲みものを買ってきた俺は、引き続き素知らぬ顔で月形の向かいに腰を下ろす。


「ありがと、泉くん。気が利くね」

「自分が飲みたいから買っただけだよ」

「あっ! ところで……」


スポーツドリンクをひとくち飲んだ月形は、何を思ったのか片手で再びノートPCを開いた。

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