第27話
「そっか、よかった」
思わず息をつく俺に、月形は満足そうな笑みを向けていた。
こいつが人に好かれる理由が、少しは分かった気がした。
こいつの情熱と前へ進む力が人を惹きつける。
不安定で後ろ向きになりがちな年頃の俺たちには、その前向きさがまぶしいんだ。
「ねえ泉くん、また部活来てよ」
月形がカップを手に取りその話を切りだす。
「泉くんは音無さんのこと気にしてるんだろうけど、あの人だってキミの作品を見たら納得すると思うから」
「……そうだな」
一応、1冊でも本を出しプロを名乗る以上、高校生1人作品で納得させられないんじゃ仕方ない。
「ワンライ、来週は出してみようかな」
「本当に!?」
月形の声のトーンが明るさを増した。
「やった! 泉くんの作品を見たら、みんなも盛り上がると思うよ」
「みんなって?」
「ワンライに参加してる、他校の人たちもって意味」
他校の文芸部とも交流のあるこいつは、全体を盛り上げることを普段から意識している。
だったら入部試験なんかやらずに門戸を広く開けばいい気もするが、そこは伝統へのこだわりがあるらしい。
……そんなことはどうでもいい。
「じゃ、そういうことで」
「はっ!? そういうことって、どういうことだよ!?」
コーヒーを飲み干した月形は、何を思ったのかテーブルを回り込み、俺の隣に……いや、隣じゃなくてひざの上に来た。
まだ熱いカップを持っていた俺は、とっさに反応できずに固まる。
ひざに跨がってきたこいつが、近すぎる距離でにやりと笑った。
「せっかく2人きりなんだから、今じゃダメ?」
「ダメって何が? 話が読めないんだが……」
「僕の処女……貰ってくれるんじゃないの?」
笑えない冗談かとも思ったが、耳元で聞くこいつの声はめちゃめちゃ固かった。
とても冗談には聞こえない。
「えーと……?」
コーヒーの熱で温まった唇が、耳元にぶつかってきて焦る。
「こ、こ、こらっ、ちょっと待て~!」
「大人しく流されちゃってよ」
「いや、ないだろ!」
「なんで!?」
月形はパッと顔を上げ、心外そうに俺を睨んだ。
その顔は真っ赤で、俺まで恥ずかしくなる。
「なんで、じゃねーよ。お前がそこまでする理由が分からない」
「張り紙見たでしょ。キミがあれを持って帰ったって聞いた」
「確かに持って帰ったが……あんなもん貼っとくわけにはいかなかったから、剥がしたってだけだ」
「ふーん……」
月形は心外そうな顔で俺を睨んだまま、ひざの上からどこうとしなかった。
そんな顔で睨まれると、うっかり流されてしまいそうで怖い。
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