第19話

真上からの眼差しを受け、息もできずにいた時――。

突然、バタバタと足音が近づいてくる。


「泉きさまッ、こンの不届き者が~ッ!!!」


そちらを振り向いた瞬間、顔面めがけて上履きが飛んできた。

月形の下敷きになっている俺に、突然の攻撃をよけるすべはない。


「ぐわっ!!」


ゴムと足の匂いのする上履きが耳の辺りにヒットした。

上履きを投げてきたのは月形親衛隊最先鋒、チョーク男である。


「月形さんに何をした……今すぐッ、月形さんから離れろー!」

「いや、この状況、どう見ても俺の方が何かされてる立場だろ……」

「……だね」


上に乗っている月形が、上半身を起こして肩をすくめた。


「お前も笑ってないで早くどけ!」


そう言うと、月形がようやく俺の上からどいてくれる。


「ごめんね、泉くん」

「なんに対する謝罪だよ……」


下敷きにしたことなのか、無理やりキスしてきたことなのか。

なんにしろ、チョーク男が来てくれてよかった。

あのままキスが続いていたらと思うと恐ろしい。


「つーかこれよく洗えよ。足の匂いすごいから」


月形の体重から解放された俺は起き上がり、チョーク男の上履きを投げ返した。


それにしても……。

棚に本を戻す月形の後ろ姿を見て、思わず華奢な腰に目が行ってしまう。

その腰を抱き寄せたい衝動に駆られてしまい……。


(くそっ! キスしたからってなんだっていうんだ)


妄想を振り払うように、俺は月形の持っていた本を奪い取った。


「俺が片づける。お前がまた転ぶと面倒だ」

「ああ、うん。ありがとう」


月形は素直に俺に従いながらも、じっとこちらを見ている。


「……なんだよ?」

「ううん、なんでもない」


戸惑うように伏せたまぶたが、妙に色っぽく目に映った。

ダメだ、俺はまだ動揺している。


「な、な、なんなんですかこの甘ったるい空気は……!? 月形さん? まさか……まさか違いますよね??」


チョークが駆け寄ってきて、泣き出しそうな顔をする。


「うるせーよ! 全然甘ったるくなんかないだろっ!」


俺は手に持っていた本でその頭をはたいた。

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