106「目覚め」①




「う……ん」


 レダは、ゆっくり目を開ける。

 柔らかなベッドの上で自分が寝ていたのだとわかった。

 数日テント暮らしをしていたが、やはりベッドの上がいいと思ってしまう。

 おそらくそんな自分は冒険者には向いていなかったんだろう。

 底辺冒険者を十年ほど続けて、ようやく自覚した気がした。


「……こ、ここは」

「レダ様! よかった、お目覚めになられたのですね!」

「――ヴァレリー?」


 視界いっぱいに飛び込んできたのは、レダの妻であり、領主ティーダ・アムルス・ローデンヴァルトの妹であるヴァレリーだった。

 彼女は、心底安心した顔をすると、レダの胸に顔を埋めた。


「お目覚めになってくださって本当によかった。まるで死んだように眠っているので、万が一があるのではないかと不安で、不安で!」

「……心配させちゃってごめんね。でも、ヴァレリーたちを残して死んだりはしないよ」

「……レダ様。ごめんなさい、わたくしったら。修行の予定が急に災厄の獣との戦いになったと聞き、とても心配していました。わたくしに力があれば、テックス様たちのように手助けができたのに、と悔しく思います」


 顔を上げて唇を噛むヴァレリーの髪を、レダは優しく撫でた。


「ありがとう。でも、ヴァレリーたちが街にいてくれるからこそ、帰ってくるべき場所があるからこそ、俺は生きて帰ってこられたんだよ。十分すぎるほどもう助けてもらっているよ」

「……レダ様……わたくし、とても嬉しいですわ」


 涙を流しながら微笑むヴァレリーは美しかった。


「ごめんなさい、レダ様。みっともないところを見せてしまいましたわ。どうしましょう、起き上がりますか? お食事も用意してあります」

「……ここは、ティーダ様のお屋敷でいいよね?」

「はい。街は災厄の獣が倒されたということでお祝いをしていますので、少し離れたこちらの屋敷のほうがゆっくり休めるだろうとお兄様が」

「お気遣いに感謝しないとね。じゃあ、みんなは?」


 部屋には、レダとヴァレリーしかいない。

 ナオミやエンジーたちがどうしているのか気になった。

 みんなも自分と同じかそれ以上に疲弊していたはずだ。


「ナオミ様は一度起き上がりましたが、たくさんお肉を食べたあとにまた眠りました。なんでも魔力と体力がすっからかんのようですわ」

「でも、元気だったってことでいいかな?」

「ええ、それはもう。元気でなければあれほどの量をお腹に入れることはできませんもの」


 ふふふ、とヴァレリーは笑う。

 さすが勇者というべきか、ナオミはレダたちよりも体力気力が上のようだ。


「テックス殿は、ルルウッド殿は、しばらくお眠りでしたが早めに起きあがりお兄様へ報告をしてくださっています。お食事は召し上がりましたが、軽くです。まだ疲れがあるのでしょう」


 ベテラン冒険者のテックスは、体力の分配をしっかり行っていたのだろう。

 がむしゃらに戦っていたレダにはできない熟練のなせることだ。

 ルルウッドも早々に起き上がっていることには驚いたが、彼が元気であるのならそれでいい。


「エンジー、ポール様、シュシュリー、アメリアは今も眠っていますわ。とくにエンジーは魔力が枯渇していたようです。おそらく、限界を超えて戦っていたのでしょう。本当に立派な青年になりましたね」

「エンジーと一緒に戦えたことを、俺は誇りに思うよ」


 かつて気弱だった青年が、おとぎ話に登場する獣を倒したのだ。

 共に戦えたレダは、彼の成長を喜ぶと同時に、未来ある素晴らしい青年と戦ったことを心から誇りに思った。






 〜〜あとがき〜〜

 エンジーにはミナがついています!


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