105「報告」①
アムルスの街は賑わっていた。
災厄の獣という大きな脅威がすぐそこまできていたが、その脅威が去ったのだ。
一度は、災厄の獣から逃げようとしたモンスターによって負傷者が多発した冒険者たちも、レダたち治癒士と、冒険者ギルド、手伝ってくれた近隣の人々のおかげで死者はひとりもでることはなかった。
もう不安はない。
もう怯える必要もない。
――住民たちは、勇者ナオミ、治癒士レダ、エンジー、ルルウッド、シュシュリー、アメリア、ポール、冒険者テックスを英雄として掲げ、彼らを讃えるためお祭り騒ぎとなった。
良くも悪くも、辺境という危険がつきまとう場所に住んでいる人々は逞しい。
それは、領主ティーダ・アムルス・ローデンヴァルトも同じであり、三ヶ月税を免除すると言い出した。
領主の太っ腹に感謝して、商売人たちは物資を開放する。
そこに酒が入ればどんちゃん騒ぎだ。
住民たちは、酒を飲み、食事を楽しむ。
家族と笑顔を浮かべ、恋人と愛を確かめ、友人と笑い合う。
当たり前のことだが、とても大切な時間を確認するようにそれぞれ過ごしていた。
■
「報告をありがとう。テックス、ルルウッド。疲れているだろうに、申し訳ない」
ローデンヴァルト辺境伯家。
領主ティーダの執務室に、冒険者テックスと、治癒士ルルウッドが報告にきていた。
街の賑わいが聞こえてくるが、すでに夜中だった。
そろそろ日変わるだろう。
テックスとルルウッドは、荷台に寝かされてアムルスに辿り着いたと同時に、張り詰めていた糸が切れて意識を手放していた。
他にも、シュシュリー、アメリア、ポールも同じく気絶するように眠ってしまった。
三時間ほどで起きることができたのは、テックスとルルウッドだけだ。
レダたちは、命を賭してでも災厄の獣を倒すと覚悟していたが、ふたりは違った。
テックスは、最悪、敗北するのであれば無理矢理でもレダたちをアムルスに連れて帰ろうと考えていたのだ。
今回は、突然すぎる襲来だったので準備ができていなかった。
しかし、災厄の獣を人間側が、できることならば魔族と手を組んで撃退することができる可能性があるのならば、レダたち聖属性の力を持つ者は死ぬべきではない。
たとえ、アムルスが犠牲になろうと、災厄の獣を倒すことが最優先事項であった。
なので、力を温存しながら戦っていたのだ。
もちろん、温存というほど力を余らせていたわけではない。
災厄の獣の前に死に物狂いで戦っていたことは間違いなかった。
だが、「万が一」を考えていた。
ルルウッドは、災厄の獣を倒すことは重要だが、多くの命を救えるレダを戦いで死なせるつもりはなかった。
ゆえに、自分が戦場に立って、いつでも盾になる覚悟はあった。
災厄の場合は、彼を連れて逃げる可能性だって考えていた。
結局、そんなことを考えている暇もなく全力で獣に立ち向かうことになったが、テックス同様「万が一」を無意識に気にしていたようだ。
目は覚めたが、くたくただ。
力は入らないし、魔力も体力も気力もない。
それでも報告すべきことが山のようにあるので、重い身体を引きずってティーダに会いにきたのだ。
幸いなのが、ティーダの屋敷で解放してもらっていたことだろう。
「さて、問題はレダのアイテムボックスにある大きすぎる魔石か。実物を見ていないのでなんとも言えないが、話を聞く限りの大きさであるのなら……正直、見たくない」
「ティーダ様よお。そりゃないぜ」
「テックス、そう言ってくれるな。――間違いなく揉める案件じゃないか!」
「違いねえ」
ティーダの言うことはもちろんだ。
間違いなく揉める。
絶対に揉める。
魔石を実際に見ているからこそ、テックスにもルルウッドにも確信があった。
「――失礼します、旦那様」
苦笑していると、執事が部屋の中に入ってくる。
「――レダ・ディクソン様が目を覚ましました」
〜〜あとがき〜〜
さあ、面倒な事後処理の始まり!
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