78「修行の時間」②





「エンジー? お父さんたちをなにから守るの?」


 しまった、とレダが焦る。

 ミナも災厄の獣に関しては知っているが、エンジーが聖属性の力を持っていることは知らない。

 テンションの高いエンジーが口を滑らさないように、誤魔化そうとする。


「――よく言ったのである!」


 しかし、レダよりも早く対応した者がいた。


 ――勇者ナオミ・ダニエルズ。


 なぜか診療所の屋根に乗って腕を組んでいる。


「ナオミ様、いえ、師匠!」

「……師匠……なんかいい響きなのだ!」

「お父さん、どういうこと?」

「さあ?」


 レダもわからない。

 親子で首を傾げる。


「――とう!」


 ナオミが屋根から飛んで地面に着地すると、エンジーの背を叩く。


「覚悟が変わっていなくて安心したのだ」

「――はい」


 ナオミの物言いに、レダは察した。


「――まさか」


 その短い言葉だけで、ナオミとエンジーは頷く。

 そういうことか、とレダも理解した。


「そうか。いいのかい、エンジー?」

「はい。覚悟は決まりました」


 エンジーには光属性の力がある。

 その力がどのようなものなのか、レダにはわからない。

 勇者であり、光属性を持つナオミがあると言うのならあるのだろう。

 しかし、エンジーの性格上戦うことは難しいと考えていた。だから、聖属性を持つことを伝えても、一緒に戦おうとは言わなかった。


(――ナオミ……エンジーとふたりで会って、戦うように説得したんだな)


 なにを思い彼女がそのようなことをしたのかわからない。

 それでも、ナオミが戦いたくない者を無理やり戦わせようとする人間ではないことはしっている。


(エンジーを戦いに加える理由は後で聞くとして……正直、よく説得できたと思うけど。問題は……ミナだよね)


 話が分からず不安そうにしている娘に、なんと声をかけるべきか。

 ミナがエンジーを気にかけているのは鈍感なレダにもわかる。

 娘の感情がどのようなものかまではわからないが、それでも後輩、または弟のように接しているのはわかっている。

 そんなエンジーが戦うのだ。

 普段の気弱な彼を知っているならば、ミナでなくとも不安になるだろう。


「あのね、ミナ」


 恐る恐る声をかけるレダを、ミナが見た。

 そして、ナオミをエンジーを見て、またレダを見た。


 ――何かを察した顔をしていた。


「……お父さんとナオミちゃんだけじゃなくてエンジーも戦うの?」


 不安で声が震えているのがわかる。

 違う、と嘘をつくことはできない。


「ミナ先輩! 僕は戦います!」


 レダよりも早く、エンジー自身が答えた。


「……エンジー」

「普段の僕は頼りないですし、ミナ先輩のお世話になってばかりです。だからこそ、僕が守ります! 僕が、ミナ先輩のことを絶対に守ります!」


 真っ直ぐにミナを見つめ、決意を口にするエンジー。


(まるでプロポーズみたいに感じてしまうけど、今は、うん。気にしないにしよう)


「……エンジー」

「はい!」

「絶対に帰ってきてね」

「はい! 必ずミナ先輩のもとに帰ってきます!」


 ミナの願いに、エンジーが力強く頷く。

 レダも決意する。

 娘のために絶対に生きて帰る。

 そして、絶対にエンジーを無事に帰す、と。






 〜〜あとがき〜〜

 エンジーくんの活躍にご期待ください!



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