49「ナオミの焦り」
「やばいのだ!」
ナオミ・ダニエルズは焦っていた。
地を這う獣のように疾走しながら、聖剣を振るいモンスターを切り刻む。
一刻も早く仲間のもとにかけつけなければ、といつもより太刀筋に焦りがある。
一撃で殺せなかったモンスターもちほらいるが、ナオミはとにかくテックスたちのもとにたどり着くことを目的にしている。
「邪魔なのだ!」
進行を邪魔するモンスターたちを斬り捨て、ナオミはがむしゃらに走った。
いくら勇者であり、規格外の身体能力を持つ彼女でも、距離を一瞬で移動することはできない。
人という形である以上、人としての限界があるのだ。
「こんなことになるなら、森の奥になんていかなかったのだ!」
苛立ち、焦り、不安をモンスターにぶつける。
細切れになったモンスターの血肉がナオミを汚す。
赤く染まった自身を気にすることなく、走り、剣を振るう。
ナオミは、モンスターが減ったことも、急に動き出したこともきにしていなかった。
生きていれば、そういうことがある。
人間が病で死んだりするように、モンスターだって急に死ぬことがあることを知っているのだ。
ナオミは、アムルスの仲間のため、レダたち家族のためにモンスターを倒すことを生き甲斐としていた。
かつて勇者として魔王を倒したとき、誰もが称賛したが、恐れを抱いていたことを感じ取っていた。
両手離しで称賛されたかったわけではない。
感謝されたかったわけではない。
少しだけ、本当に少しだけでいいから、親が子を褒めるように、友人が友人を褒めるように、「よくやった」と言って欲しかっただけだ。
しかし、ナオミの些細な願いは叶わなかった。
恐怖する目を向けられた。
言葉では称賛しながら、怯えを隠せていなかった。
利用しようという目を向けられた。
感謝の言葉を重ねながら、どうやって利用するか企んでいる嫌な目だった。
だが、ナオミは出会ったのだ。
無条件に受け入れてくれる家族と、友人たちに、アムルスで出会ったのだ。
大切な宝物を見つけた。
絶対に手放したくない、掛け替えのないものを手に入れたのだ。
ゆえに、彼女は戦い続けた。
戦いは苦ではない。
身体を動かすことは好きだ。
下心なく褒めてもらえるのも、頼りになる仲間だと慕われるのも好きだ。
心地いい日々に浸かり、幸せだった。
――ゆえに見逃した。
モンスターの動きも、森の中の気配も、いつものナオミならば気付けていたはずなのに。
短い時間でもぬるま湯に使ってしまったナオミは、研ぎ澄まされた警戒心を失っていたのだ。
「――――奴が来るのだ!」
〜〜あとがき〜〜
4月15日(月)に、コミカライズ8巻が発売となりました!
ぜひお手に取っていただけますと幸いでございます。
5月15日(水)に、コミカライズ9巻が発売となります!
何卒よろしくお願いいたします!
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