48「テックスの戦い」





 A級冒険者テックスは、迫り来るモンスターたちを切り伏せながら、仲間を引き連れてアムルスに向かって走っていた。


「撤退だ! 早く撤退しやがれ!」


 乱暴な言葉を使いながら、負傷した仲間を担ぐ冒険者たちを叱咤する。

 自らは、逃げる仲間たちの壁になるべく、迫り来るモンスターの群れを前に先頭に立ち闘い続けていた。


「街まで全力で走れ! 後先考えずに走れ! 街に戻れば、レダが治癒してくれる! だから、全力で、走り続けろ!」


 テックス率いる冒険者たちは、五十人の大所帯だ。

 もともとパーティーを組まない面々を集めて、即席パーティーを組んでモンスター駆逐の依頼を行っていた。

 五人をひとつのパーティーにして、広く未開拓の森を進むのだ。

 テックスは、総指揮を行う役目だ。


 テックスを含め熟練冒険者が、新米冒険者を育てる一環でもあった。

 ここ数ヶ月、新たな取り組みとして、行っていたが失敗はなかった。

 油断も慢心もしていない。

 いくらレダ・ディクソンという治癒士がアムルスにいるからと、命を無駄にしたことはない。


 ――それでも、今回のことは想定外だった。


「くそっ、どんな理由でいなくなったと思っていたモンスターが集まりやがった! こちつら、本来は群れになんねえだろうが!」


 草食のモンスターと肉食のモンスターが群れとなって人間に襲いかかってくる光景は悪夢だった。

 モンスターすべてが肉食ではない。

 鉱石を食べるモンスターや、薬草を食べるモンスターがいる。

 人間は、彼らの食糧を奪うので、敵認定されているのは間違いない。


 それでも、肉食のモンスターと一緒に人間に襲いかかってくることは珍しい。


 肉食モンスターは、人間もモンスターも関係なく食う。

 そこに選り好みはない。

 敵意と食欲が一緒になっているのではないかと思うほど、獰猛なのだ。


 そんな肉食モンスターが、草食モンスターを食べずに、隣にいても縄張りに入ってきたと怒ることもなく、まるで見えていないように人間にだけ向かってくる姿が異様だ。


「テックスさんも早く!」

「うるせえ! 俺はいいから早くアムルスに戻りやがれ! 助けを呼んでこい!」

「で、でも」

「早く行け!」

「はい!」


 半年ほど面倒を見た、青年が歯を食いしばって仲間を担いで走っていくのを、確認してテックスは大きく息を吐く。


 理由はさておき、若者をこんなところで殺すわけにはいかない。

 テックスにできることは、彼らの盾としてモンスターを食い止めることだ。


「……ナオミの嬢ちゃんも、こういう日に限って俺たちと離れているんだから、ツイてねえ」


 モンスターの血に濡れた剣を構え、テックスが怒号を飛ばす。

 少しでも、モンスターの注意を惹きつけようとした。


「こっちだ、モンスターども!」



 ――ああ、娘にもう一度会いたかった。



 テックスはそんなことを思いながら、剣を振い続けた。






 〜〜あとがき〜〜


 4月15日(月)に、コミカライズ8巻が発売となりました!

 ぜひお手に取っていただけますと幸いでございます。

 5月15日(水)に、コミカライズ9巻が発売となります!

 何卒よろしくお願いいたします!

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