46「往診の途中」
白衣を着たレダと一緒に街を歩くのは、弟子のアメリアと、弟子ではないが面倒を見ているエンジーだ。
ふたりは白衣を着ていないが、きちんと洗った清潔な衣服に袖を通している。
ルナ、ヴァレリー、アストリットは、弟子たちが増えたことで「制服っていいわね」となにやら考えているようだ。
レダは三人を信頼しているので、口を出さないようにしている。
「レダ先生」
「なんだい、アメリア?」
レダを先生、と呼ぶアメリアは生真面目な性格だ。
もちろん、ハメを外すときにはきちんと外すことができる柔軟性もある子だ。
「冒険者ギルドは往診の範囲に含まれていないようですが、なぜでしょうか?」
「あ……あの、アメリア、さん、それは」
「エンジーではなく、私はレダ先生にお尋ねしています」
「ご、ごめんなさい」
「別に謝れなんて言っていません! エンジーはもっとしゃんとしなさい!」
「は、はい」
アメリアは少々エンジーに当たりがきつい。
レダたちが嗜めることもあるが、あまり言い過ぎもよくないと考えている。
エンジー自身が、アメリアに悪意がないとわかっているのであまり注意しないようにしてほしいと言っているのだが、時々言いすぎることもある。
彼女は、アムルスでもっと治療をたくさんすると思っていたようだが、実際はユーヴィンに比べると平和だ。
いや、ユーヴィンが凄惨すぎた。
だが、そんな現場を経験したアメリアは、もっと治癒を行い、活躍したいと思っているのだろう。しかし、できないため、どうしても鬱憤が溜まってしまい、エンジーに強く当たってしまうようだ。
他ならぬアメリアが、八つ当たりすることをよく思っていないようで、エンジーに謝罪することも知っている。
レダとしては、治癒士の出番がないことはいいことだが、若く向上心のあるアメリアには、頭でわかっていても、心がおいついていないようだった。
「冒険者ギルドのことは常に気にしているよ。今は、俺の母が在中してくれているから、ギルドに戻ってこられるのなら、死んでない限りなんとかなる」
「フィナ様の治癒士としてのお力は素晴らしいですものね!」
「うん。ただ、治癒士がいるから少しくらい無理をしてもいいって考えが蔓延してしまうことは困るんだ。今までは、治療費が高いせいで怪我ができなかったんだけど、怪我をしないことは悪いことじゃないよね?」
「はい」
「俺も冒険者をやっていたんだけど……ちょっとした心の緩みって結構危ないんだ。ちょっとした依頼でも、大きな依頼でも、冒険者は危険が付き纏うからさ」
底辺冒険者だったレダも、何度も死にかけたことがある。
冒険者というのは、常に死が隣にいるのだ。
アムルスの冒険者たちのランクも高いが、街の周辺にいるモンスターも強い。
ひょんなことから死んでしまう可能性だってある。
だというのに、治癒士がいるから大丈夫、と考えられてしまうと危険だ。
「もちろん、なにかあれば街の外に向かうし、全力を持って治癒をするけどね」
診療所を建てる際、ティーダとレダ、冒険者ギルド、医者、薬師との話では、まず街の人たちを気にかけることから始めようということになっている。
冒険者を蔑ろにするわけではなく、街の内側から元気にしていくことを決めたのだ。
アムルスが少しずつ広がるにつれて、人口が増え、さまざまな事情を持つ者も集まる。
その際、スラムを作らないようにするのを一番の目的にしている。
アムルスにも規模こそ小さいがスラムがあった。
冒険者の親を持つ子が棲家を持たなかったり、親を失っていたりした。
戦えない傷を負った冒険者もいた。
すでにそんな彼らは保護し、治療し、住まいを与えている。
子供たちは勉強の場を、元冒険者には仕事を。
元冒険者の大半は、傷が治ると同時に前線に復帰した。
現在はスラムがないが、他の街から流れ着いた人間が路地裏にいることがある。
冒険者をはじめ、周辺の人たちが気付けば見て見ぬ振りをせず、声をかけるようにしている。
「本当は、もっと治癒士が増えるのがいいんだけどね」
「……同感、です」
「そうですね。今までの治癒士は絶対嫌がるでしょうが、冒険者と共に活動する治癒士がいてもいいと思います」
レダは頷いた。
「まだ診療所はできたばかりで、アムルスも試行錯誤の繰り返しさ。俺たちは、できることからしていこう。というわけで、患者さんをゼロにすることを目指して頑張ろう」
「は、はい!」
「はい!」
〜〜あとがき〜〜
4月15日(月)に、コミカライズ8巻が発売となりました!
ぜひお手に取っていただけますと幸いでございます。
5月15日(水)に、コミカライズ9巻が発売となります!
何卒よろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます