29「弟子に関して」①
「おはようございま――レダ! 帰ってきたんだな! ヴァレリー様も、小娘もよく無事で帰ってきた!」
新米治癒士たちに遅れること数分、この診療所を預かってくれていたネクセンが現れ、レダたちが無事に帰ってきたことをうっすら涙を浮かべて喜んでくれた。
「ユーヴィンではかなり大変だったようじゃないか。商人から話はちらほら聞いていたので、心配だったんだぞ。……レダに万が一などないとわかっていても、離れたアムルスにいると気が気ではなかったぞ」
「ありがとう、ネクセン。診療所もしっかり守ってくれて、本当にありがとう」
「ふ、ふん! 私は治癒士として当然のことをしただけだ! それに、これで、少しでもこの町に貢献できたのであれば、それでいいんだ」
「……ネクセン」
ネクセンはかつて、この町で治癒士として開業していたが、他の治癒士と変わらぬ高額治療を基本としていた。
これはネクセンが悪人というわけではなく、治癒士たちの大半が高額治療費を求めるため、「そういうもの」として受け入れ、当たり前と思っていたゆえのことだ。
今では、当時のことを後悔し、今はアムルスのために治癒士として尽力している。
無論、アムルスに住まう人たちは、最初こそネクセンに不信感はあったが、今ではレダに次ぐ信頼できる治癒士であると認めている。
それでも、ネクセン自身が自分を許せないのだろう。まだ彼がレダと一緒に診療所を始めてから一年も経っていない。彼がいつか自分を許せる日が来ることを誰もが願っている。
「素直じゃない奴ねぇ」
「ふふ、それがネクセンの良いところですよ」
つい一言多い、ネクセンにルナとヴァレリーが微笑む。
ネクセンが顔を赤くすると、照れを隠す様にレダに尋ねた。
「ところで、彼らは?」
「話せば長いんだけど、回復ギルドのアマンダさんを覚えている?」
「もちろんだ。今は回復ギルド長アマンダ・ロウ。出世したものだな」
「ははは、そうだね。彼女がユーヴィンの治癒士不足に力を貸してくれることになってね、そのお礼と言うべきかなんというか、後進を育てることになってね」
「――待て! つまり弟子ということか!?」
「うん。そうなんだけど、まだ正式ではない……ネクセンはなんでプルプル震えてるの?」
「俺に勝手に弟子を取るとはな! 弟子ナンバーツーはこのネクセンだからな!」
同僚だったはずのネクセンが弟子を名乗り始めたことに、レダはポカンとしてしまった。
〜〜あとがき〜〜
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