26「自宅での朝」
「あー、よく寝た」
アムルスに帰ってきたレダたちは、近しい人たちと挨拶を交わすと、軽く食事を取って泥のように眠ってしまった。
ユーヴィンの日々に慣れたと思っていたのだが、気付かぬうちに心身ともに疲れていたようだと自覚した。
最初こそ過酷なユーヴィンの現状とたくさんの治療で疲れていたことは自覚しているが、ユーヴィンの状況がよくなるに連れて余裕も生まれたと思っていた。
三食食べ、しっかり眠ることができたことで、わかりやすい疲労はなかったようだが、細かい疲れが溜まっていたようだ。
「……みんなお疲れ様」
まだ起きていない家族たちを起こさぬように、レダはキッチンでお茶を淹れる。
「あら、レダ。早いわね」
「お母さん、おはよう」
「うん。おはよう」
ダークエルフであり、レダの母のフィナ・ディクソンが起きてくる。
彼女はすでに起きていたようだ。
疲れているレダたちを起こさないように、静かにしていたのだろう。
「もっと寝ていてもいいのよ。疲れているんじゃない?」
「ははは、大丈夫だよ。思っていたよりも疲れていたようだけど、これでも元冒険者だからね。食べて眠ればそれなりに元気になるさ」
「ふふふ、それならいいのだけど」
三十を過ぎてから体力が落ちたことを自覚はしているが、まだまだ二十代には負けるつもりはない。
「ナオミちゃんもまだ寝ているわよ。勇者といっても十代の女の子だものね」
「ナオミはダンジョン探索で頑張ってくれたから、本当にありがたかったよ」
勇者として規格外の力と身体能力を持っていても、ナオミはまだ十代の女の子だ。
体力もレダたちよりもあるのだろうが、有限であることは同じだ。
(……そう考えると、昨日の夜から早々に飲みに行ったテックスさんはどこにそんな体力があるんだろう?)
自分よりも年上の熟練冒険者に、レダはただただ感心するしかない。
「今日は、どうするの?」
「もちろん、診療所に出るけど?」
「あまり根を詰めてはダメよ。疲れて死ぬことだってあるんだから」
「大丈夫、ちゃんと食事はとっているし、睡眠だって。家族が支えてくれるから、俺は平気だよ」
母に笑顔を見せるレダであるが、フィナは少し心配そうだ。
「誰に似たのかしらねぇ。私たちの村はみーんなのんびりしているのに」
「みんなのんびりしていたよねぇ、懐かしいなぁ」
「そうよ! 懐かしむくらいなら、一度くらいみんなに顔を見せに帰りましょうよ!」
「……そうだね。お母さんとボンボおじさんがこっちにきてくれたから考えもしなかったよ」
「まったく、この子ったら。みんなレダのことを心配しているのに」
可愛らしく頬を膨らませる母に、レダは苦笑いして謝罪した。
「ごめんね。しばらく忙しいと思うけど、その後にちゃんと挨拶に行くよ」
「ぜひそうしてちょうだい。あ、もちろん、ご家族みんなで来てね」
「うん。もちろんさ」
レダは、故郷に帰り、家族を紹介する日を思い馳せ、心を踊らせる。
だが、フィナは少しだけ、意味深な顔をした。
「…………修羅場にならないといいわねぇ」
「お母さん?」
「ううん、なんでもないわ! ささ、お母さんがご飯作ってあげるから! 今日は、私は休みなんだけど、診療所を手伝っちゃおうかなぁー!」
エプロンを身につけ、キッチンに立つ母が作った料理の匂いに、ナオミをはじめ、家族が起きてきた。
――アムルスでのいつもの日々が始まった。
〜〜あとがき〜〜
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