21「王都へ向かう予定」
魔王軍四天王シェイプと領主ティーダ・アムルス・ローデンヴァルト辺境伯との対談が終わり、ノワールと共にシェイプは部屋を後にした。
テックスは滞在のため準備をしたシェイプの部屋に彼女を案内するために、この場にはおらず、ノワールも彼女について行ったのでレダとティーダのふたりだけとなる。
「……まさか魔族と本格的に話をすることとなるとは思わなかったよ」
「なんだか、すみません」
「レダが謝ることではないさ。むしろ、元魔王であるノワール殿をミナが広い、君たち家族が受け入れてくれたことに感謝している。他の領主ではこうはいかなかっただろう」
「そう、ですか?」
「自分で言うのもなんだが、私は変わり者と言われているからね。貴族たちからすると貴族らしくないようだ。だが、そのおかげで、今がある。他の領主であれば、ノワール殿は捕縛、いや、殺害していただろう。できたかどうかはさておくとして、だ。そんなことをすれば、シェイプ殿も収まるまい」
「……そうですね。ローンデンヴァルト伯爵領にノワールがいてくれてよかったです」
シェイプはノワールを慕っている。
上司と部下というよりは、友人、いや、家族のようだった。
そんなシェイプに、ノワールがもう討伐されていた――などとなれば、大事件だ。
現在のノワールは、子猫だ。
魔王であることの彼の力は知らないが、現在はアムルス近隣に出てくるモンスターよりも少し強いくらいだ。
力を隠している可能性もあるが、勇者ナオミという規格外な存在でなくとも対処できるはずだ。
しかし、ティーダをはじめ、テックスやアムルスの住人はそれを良しとしなかった。
短慮を起こさず、長い目で見て受け入れたのだ。
その判断は正しかったと言えるだろう。
(シェイプさんがもし暴れたら、俺じゃ相手にならないだろうね)
レダもかつては冒険者であり、現在も鍛えているが、シェイプを勝てる相手とは思わない。
熟練の冒険者であるテックスたちならば、また違った感想を抱くかもしれないが、レダでは敵対した場合どう対処していいのかわからなかった。
「シェイプ殿にも言ったが、今回の件は私では処理しかねる。そろそろアムルスに戻ろうと考えていたのだが、その後に王都に行くこととなりそうだ。レダも遅かれ早かれ、王都に行く予定だっただろう? 共にどうだ?」
「……陛下にご挨拶をしなければなりませんので、そうですね、相談させてもらっていいでしょうか」
「もちろんだとも」
レダは、自国の王女を妻にしている。
本来ならば、貴族ではないレダではあり得ないのだが、陛下と殿下のおかげで可能となった。
また、結婚前の挨拶も、「後でいいから早く結婚するように」と連絡が来たので、お言葉に甘えさせてもらっている。
それでも、挨拶をあまり後回しにできない。
相手は一国の王なのだから。
「診療所をどうするのか考えなくてはいけませんが、一度、家族旅行もしたいので……個人的にはぜひご一緒させていただきたいですね。できたら、先日の王家の魔術に関してもお話しすることになりそうなので、ぜひティーダ様にもお力をお借りできればと」
「ははは。無論だとも。だが、王都でも忙しくなりそうな予感だな」
「ええ、本当に」
レダとティーダは力なく、笑った。
〜〜あとがき〜〜
家族たちとの会話を挟んで、アムルスへ。
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