11「その頃アムルスでは」③





「ふう。これで今日も無事に診療所は閉められるな」


 アムルスの診療所を代理所長として任されているネクセンは、疲れた表情で診療所の掃除を始める。

 扉を閉じるのは最後だ。

 明かりがついている間は、誰が駆け込んできても平等に診る。それがレダ・ディクソンの方針だからだ。


 だが、診療所という体をとっているからには、診療時間がある。

 ネクセンは治癒士であり、アムルスの人々のためならなんだってするが、奴隷ではない。

 疲れをしっかり取らなければ、回復魔術をしっかり使えない。

 休むことも仕事だ。

 無論、ネクセンの家は誰もが知っているので、診療所が閉まっても助けを求めることはできる。すでに何度か急患を見て、治している。

 かつてのネクセンであれば、睡眠を邪魔したと邪険にしただろう。だが、今は違う。

 傷ついた人を救うことができるのであれば、少しくらいプライベートを削っても苦ではない。

 妻には申し訳ないと思うが、そんな妻は今のネクセンを愛してくれている。

 一番の原動力だ。


「今日も盛況だったのう」

「ドニー様」

「治癒士など仕事がないのが一番だが、やはり冒険者が集まるアムルスというだけあり、荒くれ者が多い分怪我も多い」

「ですね。しかし、その冒険者たちのおかげでアムルスは平和であり、国にモンスターが入らないのです」

「承知しておるさ。ほほほ」


 初老の男性ドニー・ウィンはネクセンの師匠である。

 回復ギルドの創設者のひとりであり、悪徳治癒士代表と思われていたが、実際は少々女好きの好々爺だ。

 弟子ネクセンの結婚を聞きつけ、祝いに来たのだが、彼の現状を知って診療所を手伝ってくれている。

 とはいえ、若い女性を専門に診ようとする悪癖があるが。


「そういえば、聞いたかのう? ユーヴィンでは、冒険者ギルド長のベニーが捕まり、新たなダンジョンが見つかったようじゃぞ」

「……レダもレダで大変そうですね」

「アムルスとユーヴィンはちと離れているので、情報が遅いが、ユーヴィンは治癒士にとって忌々しい街じゃった。しかし、これで変わるじゃろう」

「そうなればいいと思います」

「だが、面倒にもなるな」

「――はい」


 アムルスの冒険者は、ローデンヴァルト領を開拓するために日々モンスターと戦い、土地を広げている。

 同時に、国にモンスターが入らないように防衛戦を張っているのだ。

 国境にある領地はもちろん、それぞれの領地で王都にモンスターが行かないように常に間引きをしていた。

 ローデンヴァルト領にとって最初の防衛ラインがアムルスであれば、次はユーヴィンだ。

 そのユーヴィンが防衛ラインとして機能していなかったのは問題だ。

 ベニーはやり手だったが、まさか多くの冒険者を使い潰し、放置し、殺していたとは思わなかった。

 そんなところで優秀者を見せて隠し通さなくとも、と思う。

 そこにダンジョンの発見だ。

 ローデンヴァルト領の外からのモンスターだけではなく、内側から発生するモンスターにもこれからは気を使わなければならない。

 もっとも、新たなダンジョンが見つかれば、我先に挑もうとする冒険者も多いだろう。

 間引きは問題ないだろうし、ユーヴィンが活気付くことは間違いない。


「わしらが難しいことを考えても仕方がない。それよりも、仕事が終わったのならいっぱい付き合え。よい酒を融通してもらったんじゃ」

「……ドニー様もお年なのですから程々にお願いしますよ」

「かーっ! わしはあと百年は生きるぞ!」


 診療所を閉め「お疲れさん」と声をかけてくれる住民と冒険者に手を振りながら、ネクセンはドニーと共に家に戻り、昔話をしながら酒を楽しむだった。






 〜〜あとがき〜〜

 アムルス回です。

 ちなみにネクセンさんはレダさんの弟子であると自負があるので、弟子たちが増えるとちょっとショックかもしれません。


 コミック最新7巻が発売いたしました!

 ぜひお読みいただけると嬉しいです! 何卒よろしくお願いいたします!

 双葉社がうがうモンスター様HP・アプリにてコミカライズ最新話もお読みいただけますので、よろしくお願いいたします。


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