53「アマンダの提案」④




「――アマンダ・ロウ殿。あなたのご助力に心から感謝いたします」


 レダの紹介でティーダとアマンダが対面した。

 アマンダは挨拶と共に、連れてきた治癒士をユーヴィンに正式に派遣したいという旨を伝えると、ティーダは深々と頭を下げた。


「……お顔をあげてください、ティーダ・アムルス・ローデンヴァルト辺境伯様」

「あなたには感謝しかない。正直、今はなんとかなっても今後をどうするべきかと頭を悩ませていたのだ」


 ティーダはレダ・ディクソンという凄腕の治癒士であり友人でもある男を抱えることができているのはありがたいことだ。

 だが、レダはひとりしかおらず、発展途上のアムルスで診療所に集中してほしいという気持ちもある。

 だが、それではユーヴィンに治癒士がいなくなる。今はなんとかなっても、レダがアムルスに帰ったあと、どうすればいいのかと悩んでいた。


 すでに王都やアムルスに連絡を取り、薬師と医者を派遣するよう準備をさせているが、治癒士だけは回復ギルドの管轄下にあるためどうこうできるものではなかった。貴族お抱えの治癒士であっても、他の領地に派遣するなどはまずない。

 それだけ治癒士の数は足りないのだ。

 悩ましい問題ではあるが、他の領地はローデンヴァルト伯爵領に治癒士を派遣することはないと言うくせに、レダを派遣しろと言う者までいるので頭がいたい。

 そんな悩んでいるところに、レダがアマンダを連れてきてくれたのだ。

 アマンダの申し出に、ティーダが感謝するのは十分すぎる。


「ただ、治癒士たちの希望があります」

「私にできることならなんでもしよう」

「いえ、ティーダ様というよりもレダさんなのですが」

「どういうことかな?」


 アマンダは少し言いづらそうに話をする。

 彼女が連れてきた若き治癒士は、レダの弟子となりたいようだ。

 その上で、ユーヴィンとアムルスにローテンションで行き来して治癒士をしたいらしい。


 たとえば、一ヶ月ごとユーヴィンとアムルスで治癒士を交換する感じにしたいそうだ。

 もちろん、二ヶ月でも、三ヶ月でもいいとのことだ。

 だが、前提として、レダと共に弟子として定期的に働きたいらしい。

 その条件さえ通れば、給金は生活を保障さえしてくれれば最低でいいとまで言っている。


「……なるほど」


 ティーダは顎に手を当て、考えた。

 レダ・ディクソンの名は王都でも轟いている。

 古参の治癒士は苦々しく思っているようだが、若手の治癒士はレダを希望と思っているらしい。

 アマンダの意識改革もあるようだが、治癒士として「金を稼ぐ」ではなく「誰かを助ける」ことに重きを置いている治癒士たちも多い。

 だが、古参の金勘定ばりの老害たちに弟子入りすることで、悪い意味で変化をしてしまうようだ。

 そして、また金に汚い治癒士が生まれると言う悪循環がある。

 そんな現状をよしとしないのがアマンダではあるが、治癒士の大半は誰かに支持し派閥を作る。これは、魔術師なども同じだ。


 ――つまり、回復ギルドに『レダ・ディクソン派』を作りたいのだろう。


 レダが利用されることは望まない。

 だが、レダの名の下に若き治癒士たちの活躍の場が多くなることはいいことではある。


「――レダ。私は君に命令はできない。友としてしたくない」

「ティーダ様」

「だから、卑怯な言い方ではあるが、レダに決めてほしい。受け入れるか、受け入れないかを」


 ティーダとアマンダがレダに視線を向ける。

 ふたりはどこか縋るような目をしていた。

 レダもお人好しではあるが、馬鹿ではない。自分の影響をすでにアマンダに聞いている。

 本来なら、家族と相談するべきなのだろうが、不思議と答えは決まっていた。


「――お受けします」






 ――後に、最高の治癒士と呼ばれるレダ・ディクソンとその弟子たち『ディクソン一門』の誕生の瞬間だった。






 〜〜あとがき〜〜

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