51「アマンダの提案」②





 アマンダの提案を聞いたレダは、大きく目を見開いた。


「……よろしいのですか? そのユーヴィンの悪い噂は」

「もちろん、存じています。正直、ユーヴィンの件も治癒士の人数が足りていないからこそ起きたことだと考えています。かつての私ならば、冒険者が悪いと吐いて捨てたかもしれませんが、冷静に考えれば、毎日のように多くの冒険者が怪我をするのに治癒士が数える程度では話になりません」


 かつてユーヴィンで治癒士が殺害されていた件はアマンダも知っているようだ。

 決して悪徳な治癒士ではなかったが、怪我人が多すぎたために救えない者がたくさんいた。その逆恨みで、殺されたのだ。


 そもそも治癒士の数が少ないのが原因なのだが、これは適正の問題もあるので仕方がないことだ。


「ユーヴィンの件は私も知っています。治療費もとても良心的で……いえ、良心的すぎたからこそ、起きた事件ではないかと私は考えています」

「……良心的すぎたから?」

「はい。お金の話になってしまいますが、ユーヴィンにいた治癒士の治療師はレダさんの診療所よりも安いのです」

「それは、すごいですね。診療所もできるだけ下げていますが、なんとか赤字にならないようにしているんです。それよりも安いとは」


 アムルスの診療所は、正直な話、赤字でも構わない。

 レダは、診療所の所長であるが、立場的にはローデンヴァルト伯爵家に雇われている治癒士でもある。

 診療所の黒字分とは別に、ローデンヴァルト伯爵家からも給金が出ているのだ。

 それでも、治癒士としての給料としては破格である。最近、ルナたちと結婚したことで、給料が上がってもいた。


 そんな診療所の料金よりも安いとなると、正直採算が取れるとは思えない。

 治癒士だって人間だ。食事はするし、休みもする。つまり、食費も、宿泊地の金も必要だ。働くだけが全てではないので、娯楽をするにも、それこそ本を一冊読むでも金はかかる。

 ならば、赤字になると大変なのだ。


 もちろん、ティーダがユーヴィンの冒険者に金の補償をしなかったわけではないだろうが、それでも、やりすぎだ。


「治療費が安いことはいいことです。冒険者は怪我をしても、命を繋ぐことができます……しかし、ユーヴィンでは悪い方向になってしまったのです」


 アマンダは苦い顔をして告げた。


「冒険者たちは、治療費が安いから怪我をしても問題ない――と慢心してしまいました」

「……それでは怪我も増えるでしょう」

「その通りです。いえ、普段ならしないはずの怪我までするようになり、治療を求める冒険者が増え、結果として治癒士が限界を迎えました。しかし、冒険者は慢心したまま怪我をする。その結果、救えない命が出てきてしまったのです」

「よかれと思ったことが仇になったんですね」

「はい。このような言い方は好きではありませんが、ユーヴィンの治癒士たちは冒険者に使い潰され、殺されたのです。個人的に、思うことはありますが、それと現状困っている人を救うことは関係ありません」

「――アマンダさん」

「実は、応援として若く腕の立つ治癒士を五人連れてきています。彼らは、このままユーヴィンで治癒士として続けてくれるとも言っています。もちろん、ローデンヴァルト様の許可も必要ですし、どのような形で働くのかも決めなければいけません」

「五人も……ありがたいです。では、さっそくティーダ様にお会いしてください」

「いえ、待ってください」

「はい?」


 即戦力を連れてきてくれたアマンダに感謝したレダは、ティーダに繋ごうとしたが、まだなにかあるようだ。


「このようなことを言う立場ではないと思うのですが、治癒士五人からの要望があります」

「なんでしょうか」

「――レダさんに師事したいとのことです」

「へ?」


 思いがけない治癒士たちの要望に、レダの目が点になった。





 〜〜あとがき〜〜

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