27「治療の時間」①





 ヒールにはいくつかの種類がある。

 初歩のヒールから始まり、範囲を広げたエリアヒール、そして、一定数の治癒士しか使うことができない「完全治癒パーフェクトヒール」だ。

 

 レダは持ち前の魔力と、その素質から初歩のヒールでも力任せに行うことで重傷でも治すことができる。

 だが、部位欠損の場合や、その状況下で時間が経過してしまう場合だとヒールだけではゴリ押しができない。

 そこで、完全治癒を習得した。


 習得と言っても、とにかくヒールを使い、質を上げ、魔力を注ぎ込み、限界まで治癒できる上限限界を増やしていったのだ。

 その習得の最中、レダの魔力のタガが外れた。

 きっかけは不明であるが、水道の蛇口を全開にして使えるようになった感覚を得た。

 そこからは早かった。

 書物ですでに知識としてあった完全治癒を早々に習得してしまったのだ。


 奇しくも、この出来事は領主ティーダからユーヴィンの現状を知らされる数日前だった。

 レダは、運命とも思える完全治癒の習得と、ティーダから今回の話を受けたことに感謝した。

 ――おかげで恩人を救うことができる。


 レダの魔力は淡い光となって、ローゼスの身体を包んだ。

 光は強くなり、眩く発光すると、あっという間に彼女の失った腕と足を生やしてみせたのだ。


「……ばか、な。こんな、こと」


 気力がないながらもローゼスが絶句しているのがわかる。

 妹分も目をこれでもかと開いて驚きを隠せないようだった。


「よし!」


 初めての完全治癒ではないが、今まで見てきた患者の中で一、二を争うほどの重症患者だったため、不安がないわけではなかった。

 結果だけみれば、大成功だ。


「姉御、よかった!」


 少女がローゼスに抱きつく。

 取り戻した腕で妹分の髪を撫でると、改めて信じられないように手を動かす。


「レダ、これは」

「詳しい話はあとにしよう。話したいことはお互いにたくさんあるんだろうけど、まだ患者がたくさんいるはずだ」

「あ、ああ」

「ローゼス。君の怪我は治療をした。しかし、体力は落ちているし、失った血も戻っていない。衛生面も改善しなければならない。今から、一緒に来てもらう。いいね?」

「わ、わかった」


 ベッドから起き上がるのも大変なローゼスだったが、レダとサムが二人がかりで起こし、朽ちかけた建物から肩を貸して出ていく。

 その姿に、近くに隠れていた人々が集まってきた。


「……ローゼス? お前、ローゼスだろう? こんなところにいたのか……いや、まて、その腕と足、まさか治したのか?」


 ひとり、またひとりと、現れてはローゼスが手足を取り戻したことに驚いている。

 そして、見慣れぬレダが治療をしたのだとわかると、人々は地面に膝を突き、額を擦らせて懇願した。


「頼む、俺の相棒も治してやってくれ。なんでもするから!」

「私の兄を治して! なんでもします!」


 狭い裏路地に、こんなに人がいたのかと唖然とするほど、助けを求める人たちが埋め尽くしていた。




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