18「ギルド長の企み」





 ユーヴィンの街にある冒険者ギルドのギルド長室。

 ギルド長ベニーは、執務机の上に足を乗せて、火のついた煙草を咥えて書類を読み耽っていた。


「ちっ、また負傷者が増えやがった。浮浪者もどんどん増えやがるし、鬱陶しい」


 事務職になって数年経ちながら、ベニーの肉体は衰えを知らず、筋肉質だ。

 髪を剃り上げ、強面であるが、人付き合いは悪くない。

 むしろ、仲間内には面倒見のよい、頼りになる兄貴分として慕われている。


 そんなベニーではあるが、内面は出世欲に溢れた野心家だ。

 もともと貴族の妾腹の子として産まれ、本妻たちから疎まれて生きていた。幼いベニーは子供ながらに、いつか権力を持って復讐してやると誓った。

 冒険者として活躍し、名を売ったところでギルドの職員となった。

 多くの冒険者の面倒を見ながら、確実に昇進を重ねていく。

 表には出せないあくどいこともしてきたが、自分の出世のためなら犠牲を厭わない貪欲さがあるので気にならなかった。


 一度はギルド本部の幹部になり、権力を手に入れたので父親とその一族に復讐をしたのだが、破滅させる代わりに、自分のしてきた今までの悪事を明かされてしまい、罰こそ受けなかった左遷されてしまった。


 復讐という一番の目的を達したが、そのころのベニーはギルドを頂点に立ち、冒険者しはいすることが最たる目的だった。

 そのこで、ダンジョンが眠っている可能性のユーヴィンに着任し、ダンジョンを探し続けた。


 しかし、眠っているダンジョンを見つけるのはそんなに簡単なことではない。

 すでにダンジョンはないと諦めているギルド職員、冒険者は多いが、ベニーにはダンジョンがある確信があった。


 ――それは、一定の場所にいくと強いモンスターが集まっていることだ。


 ダンジョンには魔力が溢れている。特に解放されていないダンジョンなら、尚更だ。

 その魔力の影響を受けたモンスターが強くなることもあれば、もともと強いモンスターが心地よい住まいを求めて移住してくる場合がある。

 ユーヴィンから少し離れた場所にある森は、まさに魔力と強いモンスターに溢れている理想的な場所だった。

 ならば、あとは探すだけだ。

 しかし、その探すことが困難を極めた。


 被害は大きい。いや、大きすぎた。

 以外が増すにつれて割に合わないと判断した冒険者たちは立ち去ってしまう。

 負傷して動けない者も増え、現在まともに動ける冒険者たちのレベルは決して高いとは言えない。

 それでも、見つかるまで何度も冒険者たちを送り込まなければならないのだ。


 そのためには、報酬を上げた。

 しかし、ギルドの資金も潤沢というわけではない。

 そこで、人身売買をひっそりとおこなっている商人に声をかけられて、誘いに乗った。

 負傷でも、生命に関わらないくらいならば、女は娼館や貴族の好事家に、男は使い捨ての労働力として売り払った。

 もちろん、勝手に人を売り買いすることができないので、怪我の治療費として働き場所を斡旋すると言い、本人を説得した上で送り出した。

 向こうで話と違うと言ってるかもしれないが、そんな声はベニーには届かないし、届いたとしても気にならない。


「あと少しだ。あと少しで、森の中心部にたどり着く」

「――ギルド長」

「なんだよ? こっちは次の編成部隊の作戦を考え中なんだがな。邪魔するなって言っただろ?」


 秘書官のエミリアは、眼鏡をかけて髪をアップにまとめた知的な美人だった。

 ベニーのやっていることを理解している少ない人間でもある。

 冒険者の中には、ベニーと協力関係の者もいるが、それは旨味を与えてやっているだけであり、利用しているにすぎない。

 エミリアは金に汚い女だが、金さえ渡せば従順な秘書であると同時に有能な人材だ。

 まだ二年ほどの付き合いだが、信頼はしていないが、それなりに信用はできる。


「緊急の用事です。間違いなくお耳に入れておくべきです」

「……言え」

「ティーダ・アムルス・ローデンヴァルト伯爵様がこの街に来ています」

「なんだと!?」

「しかも、冒険者テックスとアムルスで話題の治癒士をつれて、です」

「それで、領主様はどこにいる?」

「無能な男の屋敷に」


 ベニーは自分のしていることが悪だとは思っていない。

 しかし、領主は良しとしないだろうとわかっている。

 ならば、すべきことはひとつだけだ。


「俺の息がかかった冒険者を集められるだけ集めろ。報酬も弾め」

「貴族を殺すのですか?」

「貴族様は殺しはしないさ。だが、俺の邪魔ばかりするテックスや、話題の治癒士様には死んでもらおう。領主様も、あの無能な男同様に閉じこもっていただこう。そうすれば、ユーヴィンだけではなく、この領地が俺のものだ」

「素晴らしいお考えです。すぐに手配します」

「おう、任せたぞ」


 秘書が出ていき、ベニーは笑う。

 ティーダは堅物なので、自分とは合わない。

 テックスもそうだ。

 ならば潰せばいい。

 領主を裏で操り、旨味を吸い上げる。理想の生活が待っている。


「俺はダンジョンを見つけ、名を残すぜ! そのためなら、どんな手だって使ってやる! 領主様も治癒士も運がなかったな。あと一年くらいこの街を放っておけばよかったものを」


 ベニーは運のないティーダたちを笑い、運のある自分に酔いしれるのだった。




 ――しかし、ベニーは知らなかった。

 ティーダたち一行には、魔王を屠った勇者や、元暗殺者、ダークエルフがいることを。

 知っていれば、逃げられただろう。運のないのはベニーのほうだった。




 〜〜あとがき〜〜

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