6「手紙と驚きの内容」①




「おとうさんっ!」

「なんだい、ミナ?」

「えへへ。呼んだだけ!」


 上機嫌なミナと手を繋いで帰路につくレダは笑顔だ。

 娘の将来の夢がわかったこと、その夢が自分の姿を見て思い描いてくれたものだったことを今も噛み締めているのだ。


 ミナも父に夢を応援してもらったことを喜んでいる。

 今後、魔法学科に移ることで大変なこともあるかもしれないが、ミナなら頑張ってやっていけると信じている。

 父親とそんな娘に、してあげられることは極力してあげよう。


「きっとこんな日が続くんだろうな」

「そうだね! おとうさんと一緒に手を繋いでいつまでも歩いていきたいな!」


 いつかお嫁に行く日もくるだろう。

 きっとそのときは揉めるかもしれないし、父親として悲しむこともあるだろう。

 だが、それまではミナの父親として、この手を繋ぎ続けていたいと思う。


 レダがミナと出会ってからいろいろなことがあった。

 ヒルデガルダたちエルフとドラゴン退治、暗殺者だったルナの襲撃と和解、ヴァレリーの治療と、アストリットの治療。

 短い時間に多くのことがあった。

 それらをみんなで乗り越えて、今、ここにいる。


(――ミナと出会えたあの日に感謝するしかないな)


 ミナと出会っていなければ、今のレダはいなかった。

 それだけは間違いない。

 だから大切な愛娘がとても愛おしく、感謝している。


「あ、おねえちゃんだ! おねえちゃん、ただいまー!」


 元気よく手を振るミナの視線の先には、診療所の前に立っているルナの姿があった。


「お、出迎えてくれたのかな?」


 しかし、よく見ると妹に小さく手を振り返しているものの、その表情はどこか暗い。


(急患かな?)


 突然の怪我人が来たのかと考えるも、診療所を預かるネクセンもユーリも腕は一流だ。

 滅多なことは起きないと信じている。


「ルナ、どうかしたのか?」

「パパ、ミナ、おかえり……なんかあったっていうか、嫌な予感がするって言うか」

「おねえちゃん?」

「ルナ?」


 なにやら歯切れの悪いもうひとりの娘は、少し躊躇いがちに一通の手紙をレダに差し出した。


「これは?」

「王都から。国王のおじさんから手紙が届いたの」

「国王陛下から!?」

「配達してくれた人が言うのには、急ぎだからできるだけ早くパパに中を読んで欲しいって」


「陛下から急ぎって……なんだろう?


 アストリットの一件で、国王とは友好的な関係を築かせてもらっている。

 気さくな方である国王は、レダが平民であろうと関係なくまるで歳の離れた友人のように接してくれた。

 アストリットの弟も同様であり、彼女を含めて気さくな王族だと少し驚きもした。


 そんな国王からの手紙ははじめてではないが、緊急を要する内容というのは想像できない。

 レダは嫌な予感がした。

 またなにか自分や家族にとって、なにか起こるのではないか、そんな気がしてしまったのだ。


(いや、そんなわけないか。考えすぎだ。きっと王都で陛下の親しい方に急患が出たんだろう)


「とにかく見てみて?」

「うん、わかった」


 ルナに促されて手紙を開封する。

 見覚えのある達筆な文字が書かれていた。

 はじまりは、国王のレダたちの様子を伺う気遣いと、ご自身の現状の報告だ。

 今までとそう変わりのない手紙に内心胸を撫でながら、続きを呼んだ。


「え?」


 だが、不意にレダから声が漏れる。

 驚きと、困惑に包まれた表情上を浮かべたレダは、手を震えさせながら読み進んでいく。


「パパ?」

「おとうさん?」


 心配そうの見つめてくる娘たちを気遣っている余裕すらなく、手紙の先を急いで読み切ったレダは、その場に座り込んでしまった。


「ちょ、パパ!? なにが書いてあったの!?」

「おとうさん?」


 娘たちから問われたレダは、顔を上げミナの顔を見て泣きそうな顔をした。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「ミナの母親が見つかった」



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