4「ミナの将来の夢」①




 進路相談当日はあっという間に訪れた。

 レダは、珍しく身嗜みを整え、緊張していた。


(結局、ミナは将来何をしたいのか教えてくれなかったんだよなぁ)


 前もって娘の将来を訪ねてみたのだが、ミナは「ひみつー」と言って笑うだけ。

 進路相談でレダのことを驚かそうとしているらしいのだが、心臓に悪い。


(まさかとは思うけど、進路相談中に、この人のお嫁さんになります、とかいって男を連れてきたら――俺は修羅になる自信がある)


 不安ばかりが募る。

 おかげで、胃がいたい。

 自分がこんなに繊細だったのかと驚いてしまう。


「あの、ディクソンさん」

「おとうさん?」

「あ、はい、すみません」


 すでに進路相談は始まっていたのだが、レダは不安ゆえに思考の渦に浸ってしまっていた。

 硬直して動かなレダを不思議そうにミナと担任教師のゾーラが覗いている。


「お忙しいところ、わざわざ足を運んでくださり感謝します。さっそくですが、進路相談を始めましょう」

「よろしくお願いします」

「おねがいします!」


 レダは不安げに、ミナは元気よく返事をする。


「ミナちゃんはとてもいい子です。成績もよく、みんなに優しく、みんなからもとても好かれています」

「えへへ」

「そうですか、ミナが……」


 改めて聞き、ミナがいい子であることを誇りに思う。

 当のミナはレダの前で褒められて、少し照れ臭そうだ。


「私たち教師も頼りにさせてもらっています。クラスのムードメーカーであり、他のクラスの子とも仲がいいですからね」

「ミナはいい子だな」

「う、うん。ありがとう」


 娘の頭を撫でると、ちょっと恥ずかしそうに、でも気持ちよさそうに目を細めた。


「勉強面ですが、先ほども申し上げたように成績もよいので、まだ先のことですが、いずれは上級学校に進むこともいいかもしれません」

「そんなにですか」

「ただ、この町には上級学校がないので、王都などの別の街に行くことになってしまいますが」

「そう、ですね」

「とはいえ、まだ先のことですから、そういう選択肢もあるということだけ覚えていただければと思います」

「わかりました」


 上級学校とは、成人後に通う、学業や得意分野に専念した学校だ。

 入学するにあたり、試験は難関であるが、入学できれば将来の選択肢が増えると言われている。

 だが、意外と上級学校に進む子は少ない。


 金銭面もかかるのはもちろんだが、成人すれば働くのが一般的だからだ。

 だが、レダは悪いことではないと思う。

 学びたいことがあれば学んでほしい。

 そのためにお金がかかるとしても、大切な娘の将来のためなら惜しくない。


「もちろん、ミナちゃんが将来何をしたいかにもよりますね。ディクソンさんはミナちゃんからお聞きしていますか?」

「いえ。この場で言うと言って教えてくれませんでした」

「実を言うと、私も教えてもらっていません。どうやら、ミナちゃんはディクソンさんに一番に聞いてほしいようです」

「そうなのか、ミナ?」

「うん!」


 再びレダに緊張が走る。

 愛娘が将来のことをちゃんと考えていることを偉いと思うと同時に、自分の手が掛からなくなっていく日が近いのだと寂しくもある。


「よかったら、ミナの将来の夢を教えてくれないかい?」


 レダの問いかけに、ミナは大きく胸を張り笑顔で答えてくれた。


「わたしね、おとうさんみたいな治癒士になりたい!」



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