28「アンジェリーナの来訪」④
「そうよねぇ。好きでもない男に抱かれる仕事をしながら、好きな男に告白されて、はい……とは言いにくいわよねぇ」
「ちょっと、ルナ」
「だってぇ、あたしでも同じ立場だったら多分そうなるかなぁって思っちゃってぇ」
ルナの隠そうとしない本音にレダが嗜める声を出すと、彼女も苦い顔をしていた。
おそらく、フェイリンの気持ちがわからなくもないのだろう。
「ルナ様のおっしゃることも間違っていません。それに、フェイリンは借金こそありませんが、あの子と結婚するということは、身体の弱いお母様も引き取るということになります。娼婦であること、身体の弱い母がいること、それがフェイリンがネクセン様を拒んだ理由なのです」
「……そうでしたか」
レダは悩んだ末、それだけしか言葉を絞り出せなかった。
フェイリンの境遇も理解した。
ネクセンの想いも知っている。
どちらもお互いのことを想い、その上でフェイリンはネクセンのために身を引いた。
そのことが、どこか寂しく思えてならない。
「ひとつ聞きたいのだが、アンジェリーナ」
「はい、ヒルデガルダ様」
「なぜ、その話をレダにしたのだ?」
「実を言うと、このお話をすることに迷いがありました。両思いのふたりがこのまま離れてしまうことへの悲しさもありますが、フェイリンの気持ちもわかるのです。しかし、ネクセン様が見るからに憔悴していたとお聞きしましたので、黙っているのもどうかとも」
「それで俺に?」
アンジェリーナは首肯した。
「はい。まずは、ネクセン様と親しいレダ様にご事情を話し、どうするべきかご相談したかったのです」
「……どうするべきか、ですか、難しいですね。そりゃ、俺としてはふたりが相思相愛なら上手くいってほしいのが本音ですけど」
「ねぇ、アンジェリーナはふたりにどうなってほしいのぉ?」
ルナの問いかけに、アンジェリーナははっきりと本心を告げた。
「おふたりに幸せになってほしいですわ」
「つまり結婚しろってことよね?」
「本心ではどちらも愛し合っているのであれば、ええ、幸せになるべきだと思っていますわ」
「ただし、当のフェイリンがネクセンを受け入れるかどうかだな。うむ。彼女が悪いわけではないが、少々難しい問題だな」
ヒルデガルダも解決策が浮かばないようで、腕を組み困った顔をしている。
「……ええ、自分はネクセン様に相応しくないの一点張りでして」
おそらく、アンジェリーナもフェイリンと会話を重ねたのだろう。
しかし、説得はもちろん、彼女の意見を変えることはできなかったのだ。
「あの、アンジェリーナさん」
「レダ様?」
「よかったら、俺がフェイリンと話すことはできますか?」
「え、ええ、それは可能ですが」
「パパ、どうするつもり?」
「なにか思いついたのか?」
「おとうさんが、その人を説得するの?」
娘たちの疑問に、レダが頷く。
「お節介になることは承知しているけど、ネクセンのためになにかしてあげられることはないかなって」
人の恋愛に首を突っ込む趣味はないが、両者が相思相愛ならなんとか力になりたいと思う。
愛し合うふたりが結ばれないのは実に寂しく思えてならないのだ。
(――まともに恋愛をしたことのない俺がでしゃばるのもあれだけど)
友人のために人肌脱ぎたかった。
「でもぉ、そもそもその子が娼婦であることを負い目にしてることが原因なんでしょ? それをパパが話してどうにかなるかしら?」
ルナの言うことはもっともだ。
レダが説得できるのなら、とっくにアンジェリーナが解決しているだろう。
「うん、だからね――――」
レダは、フェイリンに会ってなにをしようとしているのかをみんなに伝える。
すると、一同は、大きく目を見開く。
そして、どこか呆れたように苦笑しながら、レダの提案に賛成してくれたのだった。
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