21「治療を終えて」②
「でも、内心は安心しています。実を言うと、治療中に邪魔が入るとばかり思っていましたから」
レダはずっと警戒していたのだ。
アストリットの治療を快く思わない人間がなにをしてくるのかわからないからだ。
しかし、邪魔はなかった。
そのことに安堵しつつも、疑問に思う。
「もしかして、俺がアストリット様を治せないって思われていたから邪魔がなかったんでしょうか?」
「だとしたら愚かだが、そのおかげで治療は成功したということになる」
「……あの、お兄様、もともと妨害など企まれていなかったということはないのでしょうか?」
「可能性は……ないわけじゃないな」
「俺たちが考え過ぎってこともありますしね」
レダたちは、少々疑心暗鬼に陥っていた。
もともとアストリット王女を害したのが、同じ王族だという。
あくまでもそういうことになっているというだけで、犯人が誰だという特定には至っていないと聞いている。
ただし、アストリットを邪魔に思うものは実際にいるのだろう。
盲目だったとはいえ、彼女の王位継承権は第二位だ。
現国王の弟が継承権第一位であり、国王の子供たちの中では一番の継承権をもっていることになる。
それを面白く思わない、もしくは邪魔だと思う同じ子供がいてもなんら不思議ではないのだ。
「ナオミ殿、申し訳ありませんが、キャロライン様とアストリット様の滞在中の護衛をお願いしたいのですが」
ティーダの申し出に、ナオミは「もちろんなのだ!」と快諾する。
「王妃のことは知ってるし、あのモンスター娘だって、せっかくレダが治したのになにかあったら大変なのだ。この町にいる間は、この私が守ってあげるのだ」
「感謝します」
勇者が守ってくれるなら、心強い。
彼女の実力を知っているティーダは安堵の表情を浮かべてナオミに頭を下げた。
レダとヴァレリーも、ナオミの協力に感謝した。
「おーい」
すると、そこへ鎧を装備し、剣を携えたテックスが現れる。
「テックスさん?」
屋敷の外で護衛をしていたテックスの登場に、レダは少し驚く。
なにかあったのではないかと身構えてしまった。
だが、テックスの態度に深刻そうな様子はない。むしろ、いつも通りだ。
「おう、レダ。お疲れさん。ちょっと領主様にご報告があってな」
「訊きましょう」
ティーダが先を促すと、テックスが続ける。
「とりあえず、今のところこの屋敷に近づく人間はいなかったぜ」
「……それは、つまり」
「なんつーか、言いづらいんだけどよ……」
「構いません」
「怪しい奴はもちろん、住民も誰ひとりとして屋敷に近づいてねえ。なら、もし刺客がいるんだとしたら、騎士や使用人の中に紛れ込んでいる可能性があるってことだな」
「――っ、テックスさん、それって!」
「ま、可能性の話だよ」
テックスは肩を竦めた。
彼自身、刺客がいるのか疑問に思っているのかもしれない。
「領主様よぉ、実際どうなんだい? 刺客は本当に現れるのかねぇ?」
「……王都にいる父から警戒するようには言われているんだ」
「理由は?」
「キャロライン様の行動を快く思っていない側室がいると聞いている。問題を起こさせ、あわよく第一王妃の立場から引き摺り下ろそうという計画は、以前よりあるそうだ」
「側室ねぇ。そういえば、王妃様は、第一王女様の他には確か……」
「第三王子と第四王女がいらっしゃる」
キャロラインの子供は三人。
アストリットが王位継承権二位、弟の第三王子は第六位、第四王女はさらに下だ。
よほどのことがなければ、アストリットの弟と妹が王位につくことはないだろう。
ゆえに、重要視されているのがアストリットだ。
たとえ盲目でも、王位継承権は健在だった。
これで目が見えるようになれば、王位に近づくだろう。
無論、それを快く思わない人間が出てくるのも想定内だ。
「やっぱりアストリット王女様か、キャロライン王妃様が狙われるんですね」
「正直、確証はない。だが、そういう話がある以上、警戒はしなければならない」
「怪しい人間は?」
「正直に言おう、全員怪しい」
「……えっと、それって」
「適当に言っているわけではないぞ。実際そうなんだ。例えば、第二王妃殿の御子息は王位継承権第三位を持つ、第一王子だ。一番王位が近い方ではあるが、それだけにアストリット様を邪魔に思う気持ちは強いだろう」
レダは王族の王位継承権に関して詳しいわけではない。
はっきり言ってしまうと、興味すらなかった。
ただ、不思議に思うことがひとつだけある。
(――どうして国王は、盲目になってしまったアストリット様から王位継承権を取り上げなかったんだろう?)
王位争いで娘が、盲目となったのだ。
二度と同じことがないように、王位継承権を取り上げておくべきではないかと思う。
もちろん、そう簡単に取り上げることはできないのだろうが、それでも、安全のためのひとつの手段ではないかと思えてならない。
そうすれば、治療だって安心してできたはずだし、今も狙われる必要がないのだ。
(俺には国王がなにを考えているのかわからないけど……なんだか嫌だな)
内心、レダがそんなことを考えていると、テックスが再び護衛に戻っていく。
彼ら冒険者は王族ふたりがアムルスに滞在中、交代で護衛につき離れることはない。
レダは信頼するテックスたちがいれば、外からの害意は抑えられると信じている。
ならば、あとは内部から刺客が現れないことを祈るだけだった。
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