47「アムルスの危機」②
「なんだよ、これ。何が起きてるんだよ?」
冒険者ギルドの屋上に移動したレダたちは、アムルスに向かい押し寄せてくるモンスターの大群に唖然としていた。
「ったく、今まででこんなことは起きなかったぜ」
「……テックスさん」
「おう。まあ、お前さんや嬢ちゃんたちがギルドに来てくれてよかった。こんなときだ、探しに行きたくても、自由に動けねぇ」
「なにが起きているのかわかりますか?」
「さぁな。ま、見たまんまだろ。理由は知らねえが、モンスターが集まってこの町に向かってやがる。冒険者の数が足りてねえぞ」
モンスターの数はざっと五千程だ。
おそらく、アムルス周辺のモンスターが集まったのだろう。
大半が小鬼などの雑魚だが、数が多すぎる。
いくら経験を積んだ冒険者とはいえ、数が多すぎると敗北する可能性もあるのだ。
「これからどうしますか?」
「俺のすることはかわらねえよ。町を守るために戦うだけさ。だけど、お前さんは違う」
「違うって、なにが? 俺だって、戦えます」
「馬鹿野郎。レダ、お前さんには娘が、家族がいるだろ? なら、余計なことを考えてないで、ギルドに閉じこもっているんだ、いいな?」
「でも――」
「まあ、聞けって。幸いなことに、冒険者ギルドの建物は堅牢に作られている。小鬼や大鬼が集まったくらいじゃびくともしねえはずだ。そりゃ、大型のモンスターだと不安は残るが、それでも、一般家屋に隠れているよりはだいぶマシだ」
テックスはそう言って、ギルドの石壁を叩いて見せる。
「レダはここにいてくれや。避難場所として開放するから、怪我してくる人たちだっているかもしれねえ。そのときは、お前さんの出番さ」
「じゃあ、あたしがパパの代わりに戦おうかなっ」
「うん。私も戦えるぞ」
レダとテックスの会話を見守っていたルナとヒルデガルダが、それぞれ武器を手にしていた。
ふたりの戦闘能力を知っているレダであるが、家族として反対する。
「駄目だ!」
「だけど、パパ……せっかく、この町で家とかもらえるのに、全部失っちゃうなんて嫌なんですけど」
「私も同感だ。この町は、エルフとの交流の架け橋になってもらうのだ。モンスターなどにいいようにさせてたまるものか」
「だからって、ふたりが戦うなんて……それなら俺も」
「だーかーらー、パパはダメって、テックスおじさんに言われたばっかりじゃん!」
娘たちを戦わせたくないレダと、レダに戦って欲しくない少女たちの意見は平行線だ。
ルナとヒルデガルダだけじゃない、静かにしていたミナも、心配そうな顔をしてレダを見つめている。
「……おとうさん」
「ミナ……、ああもうっ、じゃあ! みんなで戦うか、みんなで戦わないかのどちらかだ! 娘たちだけを戦わせるなんて俺は絶対に嫌だからな!」
レダがただ回復魔法しか使えない人間であれば、諦めがついただろう。
しかし、攻撃魔法を使えるのだから、戦わずに引っ込んでいるという選択肢は極力取りたくないのだ。
自分が冒険者ギルドの中に隠れているのに、娘たちが戦うなど、レダの性格上到底受け入れられるはずがない。
「ま、気持ちはわかるけどよ。俺からしたら、レダたちは家族揃って避難していてくれると嬉しいぜ。お前さんたちは、町の希望だ。こんなところで失ってたまるかよ」
「テックスおじさん」
「おじちゃん」
「テックス殿」
「テックスさん」
「お嬢ちゃんたちさぁ、せめてお兄さんと言ってくれっていつも言ってるだろ!」
いつも通りのやりとりをすることで、テックスは張り詰めた空気を和らげようとしてくれたようだ。
おかげで、家族で喧嘩しかけていた空気が霧散している。
レダは、テックスの気遣いに感謝した。
「とはいえ、時間はあまりねえ。あと二時間ほどでモンスターは目と鼻の先に来やがるだろうな。俺はもうすぐ前線にいくから、お前さんたちはマジで大人しくしてろよ!」
「それは……わかりましたけど、モンスターがどうして集まっているのかもわからない状況で出撃して安全なんですか?」
「安全なんかねえさ。だからって、戦わねえって選択肢はねえだろ?」
「それはそうですけど」
「私に心当たりがあるのだ!」
そんなときだった。
屋上の扉を勢いよく開いて、ピンク色の髪の少女がギルドの屋上へと現れた。
「ナオミ?」
「私も戦うのだ! 一応、勇者なのだから、協力するのだ!」
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