二
「参ったな。松永の名前がすぐに出てくると思ったんだが。なんだ、ケンカでもしてるのか」
「べつにしてません。てか、そんなのあなたには関係ありません」
「じゃあ、なんだ」
「だって、あいつにあんまり迷惑かけたくないから……。ただでさえゴルフ部のほうで忙しいのに、その上そんな大役……おいそれとは頼めねえよ」
なにが面白いのか、黒澤は今度にやにやしている。
「それなら俺にするか?」
「は?」
「俺がやってやろうと言ってるんだ」
意想外の言葉に俺は閉口した。
でも、すぐにバンドのことを思い出した。
俺がそこを突けば、得意げに黒澤は胸を張り、ふんと鼻を鳴らした。
「あらかた片はついている」
「……それでもさ」
そういえば、相棒役なんて言うけど、劇の内容はどんなものなんだろう。
やっぱりハードボイルド系か? それとも現代の刑事ものか?
そのどちらにせよ、こんな俺がそんな男臭いやつの主役で大丈夫なんだろうか。
「わかった。あんたにする」
「え、いいのか?」
「いいもなにも、維新とメイジがだめなら、ほかにあてはないし。ほかっつっても、やっぱみんなそれぞれ仕事あるし。あんたなら、俺がたとえトチっても、なんとかしてくれるだろ。生徒会さまさまなんだから」
しかし、なにやら黒澤は思案顔になった。背を伸ばしたまま腕組みまでする。
「ん? なにそれ?」
「いや……」
「あんたが俺にするかって言ったんじゃん」
「まあ、なんだ。二、三日中に決めてくれればいいから、きょうのところは保留にしておこう」
一方的に話を終わらせると、黒澤はすくと立ち上がった。
「松永に話だけでもしておけ」
と残して、さっさと和室を出ていく。
……つか、いますぐ決めなくちゃならないんじゃないのかよ。なんなんだ、ほんと。
黒澤で決めてくれて、俺は構わなかったのに。そうすれば、相棒役も生徒会が勝手に選んだってことで、維新にも説明しやすかった。
話なんかしたら、頼まなくちゃならなくなるじゃん。
座布団に正座したまま、俺は畳に手を滑らせ背中から倒れた。和室の天井を見つめる。
そりゃあ、維新となにかやれたらいい思い出にもなるし、わけわかんない劇でも楽しいと思う。
でもだめなんだ。
もうこれ以上、迷惑をかけたくない。
……維新、どう思うかな。
たとえ、わけわかんない劇のわけわかんない相棒役でも、自分は選ばれなかったと知ったら、キレんのかな。
わけわかんない催し物なんだから、なんとも思わないか。やりたくもないだろうし。
よしと、俺は体を起こした。
とにかく、全部生徒会が勝手に決めた。そういうことならあいつも納得するはずだ。
納得するはずと言い聞かせ、座卓の上を片づけると俺は自室へ向かった。
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