「参ったな。松永の名前がすぐに出てくると思ったんだが。なんだ、ケンカでもしてるのか」

「べつにしてません。てか、そんなのあなたには関係ありません」

「じゃあ、なんだ」

「だって、あいつにあんまり迷惑かけたくないから……。ただでさえゴルフ部のほうで忙しいのに、その上そんな大役……おいそれとは頼めねえよ」


 なにが面白いのか、黒澤は今度にやにやしている。


「それなら俺にするか?」

「は?」

「俺がやってやろうと言ってるんだ」


 意想外の言葉に俺は閉口した。

 でも、すぐにバンドのことを思い出した。

 俺がそこを突けば、得意げに黒澤は胸を張り、ふんと鼻を鳴らした。


「あらかた片はついている」

「……それでもさ」


 そういえば、相棒役なんて言うけど、劇の内容はどんなものなんだろう。

 やっぱりハードボイルド系か? それとも現代の刑事ものか?

 そのどちらにせよ、こんな俺がそんな男臭いやつの主役で大丈夫なんだろうか。


「わかった。あんたにする」

「え、いいのか?」

「いいもなにも、維新とメイジがだめなら、ほかにあてはないし。ほかっつっても、やっぱみんなそれぞれ仕事あるし。あんたなら、俺がたとえトチっても、なんとかしてくれるだろ。生徒会さまさまなんだから」


 しかし、なにやら黒澤は思案顔になった。背を伸ばしたまま腕組みまでする。


「ん? なにそれ?」

「いや……」

「あんたが俺にするかって言ったんじゃん」

「まあ、なんだ。二、三日中に決めてくれればいいから、きょうのところは保留にしておこう」


 一方的に話を終わらせると、黒澤はすくと立ち上がった。


「松永に話だけでもしておけ」


 と残して、さっさと和室を出ていく。

 ……つか、いますぐ決めなくちゃならないんじゃないのかよ。なんなんだ、ほんと。

 黒澤で決めてくれて、俺は構わなかったのに。そうすれば、相棒役も生徒会が勝手に選んだってことで、維新にも説明しやすかった。

 話なんかしたら、頼まなくちゃならなくなるじゃん。

 座布団に正座したまま、俺は畳に手を滑らせ背中から倒れた。和室の天井を見つめる。

 そりゃあ、維新となにかやれたらいい思い出にもなるし、わけわかんない劇でも楽しいと思う。

 でもだめなんだ。

 もうこれ以上、迷惑をかけたくない。

 ……維新、どう思うかな。

 たとえ、わけわかんない劇のわけわかんない相棒役でも、自分は選ばれなかったと知ったら、キレんのかな。

 わけわかんない催し物なんだから、なんとも思わないか。やりたくもないだろうし。

 よしと、俺は体を起こした。

 とにかく、全部生徒会が勝手に決めた。そういうことならあいつも納得するはずだ。

 納得するはずと言い聞かせ、座卓の上を片づけると俺は自室へ向かった。




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