三文詩

江戸崎えご

誘蛾灯

てふてふを欲しがったボク

昔 博物館でひっそりと佇んでいたてふてふの標本を思い出します

思い起こすに 何故だかホルマリンのかほりがするのは 記憶の混濁で御座いましょう


てふてふは 甘い蜜 或いは一等上等なミルクティー

飲み込むとほら 酔いや酔いや

てふてふの鱗粉は 蒼い星の欠片 或いはミルキーウェイ

吸い込むとほら くぅらくら


てふてふが欲しいのです

ボクにはまるで少年の日の思い出

てふてふが欲しかったのです

手にはクジャクヤママユ

あれあれ どうしてでしょう

ボクの手には てふてふはないのです


明るい火を灯す 夏の太陽はボクには眩し過ぎる

そっと小さな火を灯す 月の冷たい夜に

蝋燭の火の中で 燃える揺らめきに集まるてふてふ

あれあれ どうしてでしょう

これはてふてふではないのですね


そうか わかったぞ なんてことだ

ボクの欲しかったものは 夜の帳に潜む蛾だったのです

てふてふは てふてふは ボクの手の中ですり潰される

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