第3話 アクシデント

【檸檬が遅れて来た恋を思い出させてくれた③】

 

コンビニの前での自転車の側で待ってると山口君は笑いながら「お待たせしました、良かったら僕の住んでるアパートまでついて来てくれますか?工具が必要かもしれないから」

 私のチェーンの外れた自転車を押しながら歩きだした。

 私は言われた通りに山口君の黄色の折り畳み自転車を押しながら後ろについて歩いた。

 私の家の反対方向に歩き続けて5~6分後、小さいけど小綺麗なアパートの前に自転車を停めた。

「ここです、ちょっと待ってて下さい」と言って、外階段を登って行った山口君の後ろ姿をみながら、あの日のことを思い出していた。バスケ部が練習試合をしているというので、私達バレー部は、体育館の横で柔軟運動をしていた。


 キツイ練習の休憩中に小さなタッパーからレモンの蜂蜜漬けを1切れ口に入れた時に同じく休憩中の彼と目が合った。

「酸っぱそうだけど、美味そうに食べるね」

 そう声をかけられた私は咄嗟に「食べてみます?甘くて美味しいですよ」と答えると「じゃ、遠慮なく」って言って1切れのレモンを取って口に入れた。

 少し酸っぱそうな顔をしたあと、ありがとう美味しかったと爽やかな笑顔を見せた。


 バスケ部の練習試合はその後も続いてたので、その後は山口君も皆の輪の中に戻って行った。


高校2年の夏休みだった…


 そんなことがあったこともすっかり忘れていたけど、さっき急に私の脳裏にその出来事が思い出された。


 小さな工具箱を右手に持ち階段を降りてきた彼を見ていたら、何故だか笑いが出てきた、怪訝そうな顔の彼は「何?何か面白いことでもありましたか?」と笑っていた。

「あ、何でもありません、確か同級生ですよね、松原東高校ですよね?」

「えー?同じ高校だった?」

「もしかしたらそうかなってずっと思ってたんです」

 自転車のチェーンを直しながら山口君は笑った。

「同じクラスにはなったことないよね、さすがに同じクラスの人なら少し覚えてるだろうし」

「1,2年は1組で3年は6組でした…」

「なら…無理ないかも、俺…僕は…」

 慌てて言い直す山口君に

「俺でいいですよ、教室離れてましたからムリないですよね」

 それからしばらく、手を真っ黒にしながら作業していた山口君は、自転車のハンドルを道路の方に向きを変えて「終了しました!」とおどけながら言った。


「ありがとうございます!」

 既に両手はチェーンの黒い油で汚れていた、その手を持ってきたタオルで拭きながら。

「懐かしいなぁ~地元だし、たまには同級生に会うこともあるけど…ちょっと部屋で手を洗って来るから待ってて貰っていいですか?」

 頷いた私に向けた笑顔は高校時代のあの体育館でみた彼と同じだった。


 あの頃私は陸上部の男子に恋をしていた、ずっと片想いだったけど…そしてその恋はまったく実らずにいたけど、楽しい高校時代だったと思い出していた。


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