4/1 『嘘』
——この物語が始まる1週間ほど前のこと——
それは春と表現するにはまだ寒さが残る卯月の最初の日の昼下がり。
「高校も別々になるしさ、お互い新しい出会いを大切にしようよ」
まるで高校進学の枕詞のように、その言葉が彼の口から発せられた。すなわち、
あたしは地毛が茶髪のせいで勘違いされがちだけれど、ギャルでもパリピでも陽キャでもない。むしろその逆だ。委員会は図書委員で、昼休みは図書室で本を読んでいたし、放課後教師にばれないように寄り道もせず真っ直ぐ帰っていた。
そのギャップが相手の期待に応えられていないらしく、私に近づく人は呆れたように、落胆したようにすぐ去っていく。
だから
——……これが本当の私なんだけど
——見た目で判断なんかしてないよ。ありのままの君がいいんだ
あたしも変わろうと頑張った。外見に似合う中身になれるように。髪は規則通りのポニーテールから校則ギリギリの長さで切って少し巻いてみたり、少し話し方を変えたり。自分に嘘をつき続けた。嘘をつくの、すごく苦手なのにね。
でも結局は一時のものでしかない。中学生の恋愛なんて、中学生の見栄張りなんてそんな程度のものだが、それでも期待してしまった自分に腹が立った。
「そうだね、わかった。今までありがと。楽しかったよ」
午後を選んだのは、ヨーロッパかどこかの風習でエイプリルフールで嘘をついていいのは午前中だけ、みたいなのがあった気がする。だからそれを踏まえてのことなんだと思う。流石に別れますドッキリは趣味が悪い。
それでもあたしは自分に嘘をついた。嘘をつき続けた。その結果が外見通りの狩谷葉月、今のあたし。
「……もう少しだけでも一緒にいたかったなんて、思ってないんだから」
***
「狩谷葉月です! みなさん仲良くしてくださいね!」
よし。自己紹介は完璧。外見通りのあたしでいられたと思う。正直あたしは今も未練たらたらなので顔に出ていないか心配だったけれど、家でたくさん練習したから大丈夫。……もうあんな悲しい顔の
そんな時、あたしの次の自己紹介にする人の顔を見たら思考が停止した。
「菊原紅葉です。えーと好きなものは……」
話している内容は全く入ってこなかった。だってあたしと同じ顔をしてるから。悲しくて、寂しくて。失恋した乙女の顔だ。……流石にこれは自分で言っていて気持ち悪くなったので撤回します。でもどこか力強い印象も感じられて、わからなくなった。
「以上です」
そう言って席に戻る菊原さんを見ていると、目線が度々1人の男子に向いていることがわかった。彼女の隣に座っている人物。
「そういうことかー」
あたしはもう諦めてしまったけれど、未練がただの未練でしかないけれど。この子たちは違う。きっとまだ間に合う。それなら幸せになってほしい。これはあたしのわがままでしかないけれど、そう願った。
「藤ヶ谷涼です。よろしくお願いします」
菊原紅葉と藤ヶ谷涼。2人と仲良くなって、どうにかしてくっつかせたい。さて、どうやって嘘をつこうか。
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