元旦スペシャル『初詣』

 —この物語が始まる3ヶ月ほど前のこと—


「涼ちゃーん! 置いてくぞ!」

「いくらなんでも新年早々遠くの神社に来なくたっていいだろ……」


 僕たちは今自宅から1時間ほどのところにある大きな神社に来ている。……というか、僕は一方的に連れ出されただけだ。


「だって今年は受験生なんだぞ? 天満宮に来なくてどうするんだ!」

「寒いし遠いじゃん」

「つれないなぁ!!」


 そんなやりとりをしつつ、参拝の列へ並ぶ。115円で『いいご縁』、485円で『四方八方縁がある』のように「5円玉じゃご利益が足りないよ!」というような風習を最近聞くが、こういうのは値段じゃないと思う。


「でも一度得た縁は話したくないよな、とか思ってる?」

「テレパシー!?」

「彼女と全然会えてないんだろ?」

「しょうがないだろ、受験なんだし。……自然消滅っていうじゃん」


 自分で言ったものだが、心の中に虚しさが訪れる。消滅、消滅か……。


「まぁお前らの事情は俺にはわかんないけどさ、新年の挨拶くらいしてもいいんじゃない?」

「……挨拶、か」


 携帯をいじっていたら、参拝の列が少し進んだ。







「ほら、紅葉置いてくよ?」

「いくらなんでも新年早々遠くの神社に来なくたっていいじゃん……」


 私たちは今自宅から1時間ほどのところにある大きな神社に来ている。……というか、私は一方的に連れ出されただけだ。


「だって今年は受験生なんだよ? 初詣は天満宮意外あり得ないよ!」

「寒いし遠いじゃん」

「つれないなぁ〜」


 そんなやりとりをしつつ、参拝の列へ並ぶ。


「今日くらい彼氏誘えば良かったのに」

「多分今勉強してるから邪魔するのは申し訳ないじゃん」

「でも受験終わったら『1年近く全然話せなかったのに、今更声をかけるなんておこがましい』とかいうんでしょ?」

「むぅ」

「そんなんじゃ自然消滅しちゃうよ?幸い彼氏くんはチャラチャラしてないし一途っぽい感じあるから、紅葉に飽きたとか他の女子のことが気になってるとかそういうものはないだろうけれど」


 そんなはなしをしていると、携帯が鳴った。


「……たとえ自然消滅しちゃってもいいの」

「え、いいの!?」

「だって、嬉しかった気持ちも楽しかった気持ちも嘘じゃなかったもん!」


 きっと君も、そうだよね。


『From:涼 あけましておめでとう』



 ******************



 参拝のために帽子を脱ぐ。


 5円玉を放り投げる。


 受験とか、


 恋愛とか、


 色々なことを考えながら。


 色々なことを願いながら。


 僕だけじゃなく、


 私だけじゃなくて、


 『あなたにとっても、いい年になりますように!』

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