寄りを戻そうとする元カノが可愛すぎる件について

第2話 登校

　自然消滅した元カノと高校で再会した。その翌日のこと。

「昨日話した感じだと僕のことは嫌いになってないみたいだし、嬉しい、けど」

　嬉しいけど、同時に紅葉との復縁を望んでは行けない気もした。そりゃもちろん僕はまだ好き……ではあると思うし、紅葉もそうあってくれたら嬉しいけれど。

　この意気地なしの僕にまだ気をかけてくれるあたり、やはり人の良さが出ている。……僕にはもったいないくらい良い子なのだ、あの子は。

「あ、涼くん」

「……え？」

　声をかけてきたのは紅葉だった。今日は学校探索を少しだけしようと思って早く家を出たのだけれど、紅葉もそうなのだろうか。

　同じ高校の同じクラスという偶然に引き続き、同じ時間に同じ駅の同じ電車に乗るなんて、こんなことある？

「……なんでこんなに早く登校するんだ？」

「ちょっと学校のことを探索したくて……」

「——っ」

　この偶然（運命）は、僕を嫌というほど振り回したいらしい。

　＊＊＊

「あれ、でも最寄駅は一個隣じゃなかったっけ」

「ぜ、全然そんなことないよっ！　別に少しくらい早く家を出て隣の駅を使えば涼くんに会えるかななんて邪な考えでこの駅を使ってるわけでは全く無くて、たまたま親のおつかいでこの駅の近くに用事があっただけだから！」

「……わかったからとりあえず落ち着いて？」

　なんだよ、邪な考えって。とにかく、流れで一緒に登校することになってしまった。まだ電車は来ないが、しばらく2人で黙っていた。

　……気まずいんだってば、ほんとに。

「あの、ずっと聞きたかったんだけどさ」

「ん？　なに？」

　昨日も同じような流れで質問された気がするけど、今は気にしなくて良いだろう。今の僕たちには多分こういう擦り合わせが必要だ。

「涼くんって、新しく好きな子できた？」

「……ふぇっ？」

　昔のことについて何か聞かれると思っていたので、予想の斜め上を言った質問に間抜けな声が出てしまった。

　……なるほど、そうきたか。

「いや、できてないけど」

「ほんと？　嘘ついてない？」

「ついてないついてない。あと近い」

「嘘ついてたら切腹だからね？」

「死罪になるのは嫌だから嘘つかないよ。あと近い」

　僕に問いかけるごとに体を乗り出し体重をかけてきていた紅葉が、そう答えるとやっと離れてくれた。

　彼女は『良かったぁ……』と言って安堵のような、目一杯の笑顔を浮かべていた。……やっぱり可愛いな。

「……可愛いな」

「へ？」

「あ」

　……口が滑った。

「かかかかか可愛い？」

「ほ、ほら！　えーと……あっ、この広告の猫だよ！」

「あ、あーそっか！　確かに可愛いよね！あはは……」

「あはは……」

　僕は咄嗟に駅のホームに貼ってあった猫を指差して切り抜けた。

　こうなってしまうとやはり気まずくて、それから学校に着くまで僕たちは無言だった。

　＊＊＊

「……なにお前ら2人仲良く顔を赤らめて俯いてるの？」

「なにかいいことあった？　手が触れ合って恥ずかしがってるような、初々しいカップルみたいだけど」

　登校した後、僕の前の席と紅葉の前の席にいる二人に、それぞれ問い詰められていた。

　気まずさと恥ずかしさで、平静を装い今朝起きたことを隠し通すことができなかったのだ。そのためすぐに勘繰られた。……やってしまった。

「これは2人に話してもらうしかないなぁ〜」

「「な、なにもなかったし！」」