寄りを戻そうとする元カノが可愛すぎる件について

星宮コウキ

プロローグ

 藤ヶ谷ふじがやりょう、は愚か者だ。どうしようもない、愚か者。

 高校生になった藤ヶ谷涼――僕は、未だに自分の愚行を後悔しながら、教室の後ろのドアをくぐる。


 中学二年の夏頃、僕に彼女ができた。名前は菊原きくはら紅葉くれは。肩まで伸ばした綺麗な栗色の髪と、澄んだ瞳が似合う可愛らしい女の子だ。

 僕と紅葉は中一のときからずっとクラスが一緒で、委員会も同じだった。委員会をきっかけに僕らは次第に仲良くなっていき、時には委員会後一緒に帰る(当然僕が送る側だ)と言うイベントも度々発生した。


 そうして同じ時間を過ごすうちに、だんだんと惹かれていった。

 隣を歩く時も、靴一足分あった二人の距離は肩が触れ合うくらいになり、指先が触れ合って、やがて手をつなぐようになった。


「付き合おっか」

「うん」


 お互いが友達以上の関係になることに抵抗もなく、そんな簡単な会話で恋仲となった。

 特に目立ったことも変わったことはせず、ただ委員会がない日も一緒に帰るようになった。そしてたまに休日にデートをする。そんな日々が幸せだった。


 二人の関係に亀裂が入ったのはそれから半年後、進級して3年生になったときだ。初めて僕たちは別々のクラスになって、それでも最初の方は今まで通りに過ごしていた。そんな僕らに大きな障害が現れた。高校受験である。


 僕も紅葉も、親の方針により頭のいい高校を受けさせられることとなっていた。当然勉強時間が増え、会う時間も少なくなって行く。

 塾も違い開始時間が異なっていたため、異なる時間に終わる他クラスのHRホームルームを待っていることも無くなった。

 さらに僕たちはまだ自分の携帯電話やパソコンを持たせてもらえていなかったため連絡もできず、ついには会って話すこともなくなってしまった。


 そんな微妙な関係になってしまい、互いに気まずくなってしまう。勇気のないヘタレな僕は、そのまま卒業式が終わっても何もできなかった。連絡先さえ交換することなく進学することになってしまったのだ。謂わゆる、自然消滅と呼ばれるやつに値するものである。







 そして現在。僕は無事志望校に受かった。紅葉の結果はわからない。僕は紅葉に対して何もしなかった未練と後悔を抱えたまま、高校に上がったのである。


「くよくよしてても仕方ないか……」


 今更後悔したって、過去をやり直せるわけじゃない。紅葉のことは割り切って新しく高校生活という青春を楽しもうと強く決意する。


「あ、涼ちゃん! 俺の後ろの席空いてるからこいよ。自由席だって」

「紅葉ちゃん、ここに座ろー!」


 指定された教室に入るや否や、中学時代の塾の友達が僕の座る場所を誘う声を聞いた。それと同時に、よく知っている名前が近くで呼ばれるのも。

 ……え?


 座る前に声の聞こえた方向、隣の席を見る。

 そこには僕と同じ姿勢で、そしておそらく僕と同じように目を丸くしてこちらを見ている見慣れた姿があった。


『あ』


 そう。自然消滅して別れた紅葉が目の前にいたのである。

 気まずい沈黙が流れて、僕は目を逸らす。


 どうやら運命は、心機一転して新しく清々しい高校生活は送らせてくれないらしい。


 ……それにしても気まずい!

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