あの日、ぼくは。

ゆいまる

第1話 プロローグ〜鯨(巨大生物)と少年〜

 あの日、僕は。溺れた。

 いや、溺れたというよりは落ちた。

 落ちて落ちて、僕の13歳にしては華奢だと言われる小さな身体は深い青に包まれてより深く沈んでいく。


 ああ、綺麗だな


 チラチラと光ちいさな泡たちが少年の伸ばした手をつたい

 遥か先の水面へとのぼっていく。


 まって、僕もそっちに-


 途端にあたりが真っ暗になった。

 いや、しかし。気を失ったわけではない。

 僕の目の前の"それ"が太陽を遮ったのだ。

「そこをどいてくれないか?」

 少年はクジラの形を模したそれに言った。


 いや、正確には言ったわけではないのだが。

 なぜなら、いま口を開けば大量の水が身体の中にはいって、それこそ気を失ってしまうからだ。


 少年の思いが届いたのか定かではないが、"それ"は少年に言った。

「君、このままだと戻れなくなるよ。」

 至極当然のことを幻のような巨大生物に言われ、つい口が緩みそうになった。


 あぶないあぶない。

 いま口を開いてしまったら巨大生物の言葉を即実行に移すことになる。

 そもそも僕にそこまでの行動力はない。

 いや、行動力のない僕でもこのまま何もしなければなるのだけど。


 巨大生物はまるで本当のクジラのようにその大きな体を翻しながら再び言った。

「君は死にたいのかい?それとも生きたくないのかい?」


 僕にはその言葉の意味がいまいち理解できなかった。というよりは、知らない。

 なんとも思わないのだ。


 少年の心を悟ったように"それ"はゆっくりと少年に近づいて、そして、呑み込んだ。

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