第36話 ラブコメ警察

 その後、射的以外にも金魚すくいやくじびき、スーパーボールすくいなど、みづきと二人で色々と遊び歩いているうちに少し小腹が空いてきた。(ちなみに金魚は持って帰っても飼えないので全部水槽へと返した)


「そろそろ、なんか食い物でも買うか」


「うん、賛成。なんかお腹空いちゃった」


「あんだけ遊べば、そりゃそうだろうよ……」


 祭りに来てから、みづきはずっとはしゃぎ遠しだ。いつになく高いテンションで、俺はもうついていくのがやっとまである。これが若さというやつか、などとしみじみ感じ入ってしまうほどだ。


 だがまあ、ここまで楽しんでくれると連れてきた甲斐もあるというもので、疲労もさほど気にならない。


 今日は色々、楽しんでほしいからな。みづきの要望には可能な限り応えるつもりだった。


「それで。なに食いたいよ?」


「んー……ぜんぶっ」


「全部は腹に入らねえだろ……」


 呆れながらも辺りを見遣ると、近場にあるのはクレープにわたあめ、それに串焼きの屋台だった。


 クレープとわたあめは食後の方がいいだろうな。そうなると、選択肢はひとつ。


「串焼きでも食ってみるか?」


「なかなか肉食系おっさんな提案だね、タツトラ君」


「そこは、男子でいいだろ、男子で」


 あえておっさん呼ばわりされるとお兄さん哀しいよ……。


「まあまあ、気にしなくったっていいじゃん。そういうの気にするほうがおっさん臭いよ?」


 からかうように笑いながらみづきがそう言ってくる。


 それから。


「ほら、そうと決まれば早く早くっ」


 と、俺の腕をぐいぐい引きながら串焼きの出店の方へと向かっていく。


 ……っていうかいや、ちょっと待て。引っ張るのはいいが、俺の肘の辺りがなんかやわっこいものに包まれてる気がするんだが。ほんとお前、今日だけでいったい何回俺の血流に悪いことするつもりだよ。


「おい――」


 これは少々無防備すぎかしらん。ちょっと注意でもしようと思い、口を開きかけたその時である。


「はいはいどうも~、こちらラブコメ警察で~す、そこのいちゃらぶ今すぐやめなさ~い!」


 そんな声が横から差し挟まれたのは。


「っていうか、この泥棒猫はまったくも~! 凝りもせずにわたしのお兄ちゃんに手を出さないでほしいも~ん! ほらっ、離れた離れた!」


 声の主は奏であった。突然現れた奏が、俺を引っ張るみづきの手にえいやえいやっとチョップを食らわせている。しかも狙いが甘すぎて、半分ぐらい俺に当たっている。痛い。


 手を叩かれたみづきは、少し痛そうな顔をしながらも存外素直に俺から離れる。肘の辺りを包んでいた柔らかい感触が消える。……別に惜しんだりはしていない。本当だぞ。


 俺から離れたみづきが、奏と視線の高さを合わせるようにして身を屈めた。


「えっと……タツトラ君の妹の、奏ちゃん、だっけ? 久しぶりだね」


「うん、久しぶり~」


 挨拶を受け、奏がゆるゆるの笑顔を浮かべる。


 だがそれからハッとしたような顔つきになると、「ばかにしないでっ」とみづきに食ってかかっていた。


「お兄ちゃんを狙うどくふ毒婦が、親しげに話しかけてこないでよっ」


「うんうん、お兄ちゃんが大好きなんだねえ」


「そうよ! 奏の方が、あんたみたいな間女よりもお兄ちゃんのこと好きだもんっ」


「そっかあ。奏ちゃんには敵わないなあ」


「お、お兄ちゃん! 聞いた聞いた? わたしの勝ちだって!」


「……そうかそうか。やっぱアホだなお前」


「がーんっ」


 目を丸くして奏がショックを受けている。だが、お前今十六歳とししたに子ども扱いされてるからな、十九歳としうえよ。

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