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 スマートフォンの画面越しに存在する認めたくない具現化された虚像。閲覧後の後悔が目に見えている現実を人はどうして見たがるの?

嫌いな人間のSNSを監視して自ら不快を心に巣食わせる行為。それこそが泥臭い人間らしさかもしれない。


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シーニュから秋に発売される新作のチークとリップ可愛いよー!

リップは02か03が好み。どっちの色にしようか迷っちゃう~

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 見ているだけでこちらの神経を逆撫でさせる文面。綺麗でいることが幸せだの、女に生まれたからには綺麗でいたいだの、美容に関するツイートをして意識高い系を気取っている。


(くだらない)


 病院の職員食堂でチキンカツ定食を頬張る下山祐実は声に出さずに毒を吐いた。

仕事の休憩時間に嫌いな女のSNSを開いて相手を馬鹿にする。それが彼女のルーティーンだ。


 祐実は自分の外見が大嫌いだった。一重瞼がアジアンビューティーや大和撫子だと言われるのは顔の輪郭や目鼻立ちのパーツが恵まれている人間に限られる。


祐実のように瞼の皮膚が重たく、目が細い一重と団子鼻、大きい頭と大きい顔を持ち合わせた容姿はお世辞にもアジアンビューティーとは称されない。


加えて身長156センチに対して体重が60キロ、ふくよかな部類に位置する体型が自信の無さに拍車をかけていた。

来年秋に控えた結婚式に向けてフィットネスゲームを活用してダイエットに励んでいるのものの、十代から体に蓄積した脂肪は簡単には落とせない。


 メイクやお洒落は自分とは縁遠い世界。だから祐実は自分が楽しむ権利のない“お洒落を楽しんでいる女”が大嫌いだった。


 あの女のSNSを見るとコンプレックスを刺激されて嫌になるのに、どうしても見てしまう。

嫌いな女は夫の元カノ。あの女の存在を知ってから2年、祐実は画面上に可視化された敵に苦しめられてきた。


いっそのことあの女がこの世から消えてくれたら苦しみから解放されて楽になれる。

事故にでも遭って死んでくれないか、男にこっぴどくフラれて泣いて暮らせばいい……嫌いな人間の不幸を願う自分が医療に従事する資格があるのだろうか。


 鬱々としかけた精神を取り戻そうと、彼女は自分のツイッターに画面を切り替える。タイムラインに並ぶフォロワーのツイートをスクロールして追っていくと、あるフォロワーのツイートに自分の名前を見つけた。


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この前の飲み会の時ゆみちゃんのお肌がツルツル過ぎてびっくり。

あの時はファンデもつけてないって言ってた。

どうしたらあんなに綺麗なお肌になれるのかなー

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 このツイートをしたフォロワーとは同じロックバンドのファン同士。ライブの後のファン同士が集まる飲み会で親睦を深めている。


 顔が可愛い、スタイルが良いとは生まれてこのかた一度も称賛されたことがない祐実も肌だけは褒められる。

特にトラブルのない強い肌は遺伝のおかげだ。


太っていても美人じゃなくても結婚はできる。夫の彰良あきらはありのままの自分を受け入れてくれた人。


 二十六歳で初めて出来た彼氏との結婚。この恋愛は正しく純愛だ。

最後に勝つのは外見よりも中身。性格の悪い“元カノ”よりも自分が選ばれた。その事実が祐実の優越感と自尊心をどうにか保っていた。


(私は正しい恋愛をしただけ。私は悪くない)


 休憩時間の暇潰しに裕実はスマートフォンの画面上に並ぶアプリから黒くて四角いアプリをタップした。

agentエイジェントと呼ばれるR17指定のゲームアプリは作成した自分のアバターを使ってバーチャル空間で相手を倒す悪役体験型のクライムアクションゲーム。これが良いストレス発散になる。


 ゲームを有利に進めるために必要なアイテムにはその都度、課金しなければならない。けれどゲームに課金した八万円も十万のも惜しくはなかった。

あの女はもうすぐ死ぬ。そうすればやっと解放される。


 嫌いな女に似せて作った相手のアバターの腹にナイフを突き刺した裕実の顔には、穏やかな微笑が浮かんでいた。

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