番外編
赤ずきんリナ
注意
この物語はコミカルかつほのぼの路線を無理矢理出そうとした結果、少しおかしな話になっています。それを踏まえた上で閲覧頂ければ幸いです。
昔、昔あるところにおじいさんもおばあさんもおらず、ましてや仲睦まじい母娘もいませんでした。いたのは老若問わずに男全員を穴兄弟にしてしまい、隣の村から放り出された少女でした。
その少女、リナは同年代の友人達が切り盛りしているパン屋に務めていたのですが、まともに働かないので、いつも危険な動物達がいる森の中にパンを届ける役目を押し付けられていました。
「というか、自業自得じゃん」
と友人であり、パン屋の接客担当である少女、ミサは言っていました。
とにかく、主人公であるリナの一日はパン屋の支度でも、商品であるパンの仕込みでもなく、一本の煙草から
「始めんな、こら」
「ぐえっ」
頭を軽く蹴られて、変な呻き声を上げたリナは、咥えていた煙草を地面に落としてしまいました。それに構わずミサは、手に持っていた籠を彼女に突き出します。中には大きなパンと赤ワインのボトルが入れられていました。
「ほら、配達行ってきて。いつも通り森の中に住んでいるカオルさんところね」
「……おばあさんがいないからって、出演女性で年上のカオルさん選ぶのって、配役的にどうなの?」
「そういう裏方事情は作者に言え」
籠を受け取り、渋々ながら森へ向かうことにしたリナは、パン屋の裏に向かいました。そこには首を縄で縛られた狼が切り株に腰掛けて、今朝の新聞に目を通していました。
「ほらクロ、配達行くよ~」
「ちょっとまて、こら」
ミサはリナの肩を掴むと、一旦狼から距離を置きました。その間にも、クロと呼ばれた狼は缶コーヒーを口につけ、悠々と新聞を読んでいます。
「なんで森に入る前に、狼役が首根っこ縛られたまま店の裏で缶コーヒー飲みながら新聞読んでんだ!?」
「え、だって……ワタシのペットだからだけど」
「本編の設定をここにも持ってくるな!! というか新聞と缶コーヒーって、時代設定どうなってんのよ!?」
とはいえ、他にも狼役の人間がいるので、この件はスルーとなりました。
首を縛っていた縄を解き、新聞を畳んだクロを従えたリナは、慣れた調子で森へと向かっていきました。そして空き缶はスタッフが責任をもって片付けました。
「ところでさ……」
「なあに~クロ?」
思い出したかのように赤い頭巾を頭に被り、適当な枝を振り回しながら歩いているリナの後ろをついてきていたクロは、不思議そうに尋ねました。
「……なんで俺、初っ端から飼われてるの?」
「一人暮らしで寂しかったからだけど?」
「そんな彼氏いない生活送っているOLみたいなことを……」
もっと若いでしょ、とクロは思いましたが、口にしませんでした。
まあ人生経験も性交経験も濃いとはいえ、年下の少女に飼われているということ自体が異常なのに、それに従う狼も狼なのですけれどね。
「というか、よく森の中に入れるね」
「まあ、何かあったらこれがあるし~」
そしてリナが掲げたのは、細長い猟銃でした。
単発式で連射はできませんが、この時代では結構強力な武器です。その猟銃に繋がれた紐を肩に掛け、再度枝を振り回しています。
「いつも思うんだけどさ、なんで赤ずきんのおばあさんは森の中に住んでるんだろうね。狼が出るのに」
「そう言えばなんでだろうね。原作は違うのかな~?」
「グリム童話? 読んだことないから分からないな」
適当な石を拾って投げながらも、クロはリナに従って歩いて行きます。
「もしかしたらおばあさんはすごい財産を隠していたのかも。だから赤ずきんはおばあさんに取り入ろうと、お使いに精を出している……なんてのは?」
「だったらお宝の描写も欲しいね。なのに出てきたのは、狼の腹を裂いて石詰め込むシーンだし」
クロは石を遠くへと蹴り飛ばしました。
「あれって結構グロイよね~絵本じゃ可愛く描かれてるけど、絶対トラウマ物だってあれ」
「そもそもグリム童話自体がグロイから、どんなに柔らかく表現しても限界があるって」
クロは拾った大きめの石を両手で持ち上げて、近づいてきた狼男を撲殺しようとしました。
「あぶねえなおい!!」
「……ちっ、仕留め損ねたか」
先程からクロが攻撃していた狼が、我慢できずに飛び出してきました。その後ろには更に二匹、狼が控えています。
「あれ、おっちゃん達前に殺した悪徳警官じゃん」
彼等は第一シリーズ004にて登場しています。
「死んだ人間使うのアリなら、あの女も呼んで欲しかったな……」
「というか、おばあさん役にぴったりじゃん。関わるのめんどいから、助けないけど」
そんなことしたら、ただの殺戮で物語が終わります。腹掻っ捌いただけで終わるじゃないですか。そんな物語に意味はありません。
「とにかく、今度こそレイプしてやるからね~」
「徹底的に犯してやろうじゃん!!」
「ひゃーっはっは!!」
狼というより、もはや子悪党と言う方がしっくりくる光景です。おまけにキャラも壊れています。作者がキャラを覚えていないというだけの話でもありますが。
「……どうするの?」
「こうするの」
リナは手前の狼に近寄り、猟銃の銃身を握って構えると、そのままぶん殴りました。
「あぎゃっ!?」
「てめどこっ!?」
「ぼげっ!?」
そのままフルスイングして右の狼を横薙ぎに殴り、勢いをつけたまま左の狼も殴りました。その後も数回ボコってから、リナはクロの傍に戻りました。
「クロ、とどめ刺して」
「これでいい?」
そしてクロは懐から、ダイナマイトを取り出しました。
『だから時代設定!?』
そんなもの、この物語にはありません。
「ライター」
「ライター」
阿吽の呼吸でリナは、クロの持っているダイナマイトの導火線に火を点けました。
そのまま煙草を咥えるリナを尻目に、クロは狼達にダイナマイトを投げつけました。
「撤収~」
リナとクロは近くの岩陰に隠れました。
そして狼達はダイナマイトの爆発で空の彼方へと飛んでいきました。
『覚えてろ~!!』
しかし、二人は聞いていませんでした。
「ところで煙草やめたんじゃなかったの?」
「番外編だから特別特別~」
二人は岩陰で小休止してから、再び歩き出しました。
目的地に着いたリナ達は、そのままカオルに取り押さえられ、診察を受けていました。
「はい、健康。けど煙草はやめてね」
「は~い」
リナが検診を受けている間に、クロは配達した物を片付けていました。
「狼吹っ飛ばしたから、流石に腹を裂く描写がないな。……ってあれ?」
クロはふと手を止めて、首を傾げました。
「そう言えば、猟師役って誰だったんだろう?」
『出番がなかった……』
猟師役には白鴎組一同がスタンばってましたとさ。
めでたしめでたし。
「(ジト目)……というか彩音っち、途中で飽きたでしょ?」
めでたしめでたし!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます