015 後始末

 ……ガチャッ!

「これでよし。後は警察に任せればいいわね」

「はいお疲れ~ふぁああ」

 公衆電話で警察に通報したミサは、その横で欠伸しているリナとその場を離れた。流石に詳しく話せば面倒なことになるので、不審者を見たという程度の通報だが。

「これでアカネも満足して天国に行けるよね……」

「いや死んでないから。援交やめただけだから」

 リナのボケにミサはツッコミを入れつつ、近くに止めていたバイクに跨った。

「そんじゃ帰るけどさ……一つ聞いていい?」

「ん~なに~」

 流石に疲れているのか、普段は起きているリナでさえ、眠気に襲われている。それでもミサは気になり、あることを口にした。

「あんたあのペット、まだ飼い続けるの?」

「え、だって追い出す理由がないし?」

 何言ってんだこいつ、という目をしてから、流石に辛くなったのか、さっさと背を向けて帰っていった。

 家路についたリナを見つめつつ、バイクのハンドルにもたれながら、ミサは呟く。

「普通、身近な人間が死地に向かっているっていうのに、通報や武器の提供だけでじっとできるわけないでしょうに……」

 本人もおそらくは気づいているのかもしれない。けれども、それでも何も言わないなんてどうかしているとしか、ミサには思えなかった。




「あのクロとかいう男、いったい何を考えてるの……」




 善悪も損益も、おそらくは生死も厭わないのだろう。クロという青年がリナという少女にどのような感情を抱いているのか。

 ミサは一抹の不安を抱きつつも、眠っていたバイクのエンジンを叩き起こした。




「ただいま~眠い」

「おかえり。お風呂湧いてるよ」

「ううん、もう寝る~」

 丁度布団も敷かれていたこともあり、リナはそのままダイブして寝転がった。そのまま寝ようとしたご主人様に、クロは声を掛けた。

「それで、通り魔どうなったの?」

「殺して通報した~だからご飯は野菜うどんでよろしく~」

 完全に意識が落ちたのか、寝息を立て始めるリナを見つめるクロは、小さく呟いた。

「明日の新聞次第だな。少なくとも夕刊までは確認するとして……」

 その日、クロは眠ることなく、新聞やテレビに注意を向けていた。まるで、その時が来たのかを確かめるように……




「ちょっといい?」

「ん~、どうしたの、クロ?」

 丸一日たったあさ。流石に今日は休もう、とアップルフォンを枕元に投げ捨てながら、リナは寝転がったままクロの方を向いた。

「前に話したよね。その時が来るまで、一緒にいるって」

「話したね~それがどうかし、た、の……」

 疲れていたからか、リナの反応は遅れた。クロの声色が変わっていることに。

「その時が来た……だから聞いて欲しい。俺の話を、俺が何から逃げているかを」




 リナ達が通り魔を殺して丸一日が経過したが、その死体がニュースに流れることは、終ぞなかった。

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