009 装備
「……というわけで武器が必要なわけよ。分かる、クロ?」
「分かるけど……拳銃以上の武器なんて用意できないよ?」
帰宅してすぐ、リナはクロにすり寄った。何かと器用なペットだ、もしかしたらすごい武器を用意してくれるかもしれない。
しかし、期待した答えは返ってこなかった。
「それこそ例の売人に頼んで用意してもらったら? 流石にお金はかかるかもだけど……」
「……これ」
そう言って差し出されたのは、リナのアップルフォンだった。
どこかに電話でつながってるらしいが、クロの耳に流れてきたのは、『この電話番号は現在使用されていません』という意味のアナウンスだった。
「あの売人、定期的に電話番号替えてんのよ。だから次の仕事までは、こっちからは掛けられないの」
「なるほど……」
アップルフォンをリナに返すクロ。しかし、彼自身も代案が浮かぶわけではない。
「まあ、個人的な護身具位なら用意できるけど、それでもいい?」
「それっきゃないかな~じゃあさ、クロ」
何、と首を傾げるクロに、リナはある提案をした。
「なんか特殊弾とか作れない? ほらテレビとかでよくある、壁を吹っ飛ばしたり、当たった瞬間に爆発するようなやつ」
「無理」
なんでさ~、とふてくされるリナに、クロは座卓に転がっている銃弾の一つをつまんで掲げた。
「あのね、拳銃弾っていうのは大雑把に言うと、先端の
「……まあ、大体?」
クロは弾丸を差していた指を降ろし、肩を落とした。
しかし気を落としてはいけない。大抵の人間は手持ちの道具の使い方は理解していても、その原理までは詳しく語れないのだ。興味を持たないのは当然であり、むしろ理解していない周囲だと『オタク』とか言い出すアホの方が多いのではないだろうか。
「で、無理な理由その一。この弾丸が小さすぎて細工不可能」
「たしかに、あらためて見るとちっこいなぁこれ」
リナも弾丸を一つ指で掴み、しげしげと眺める。本来ならば用途に応じて弾丸の大きさが違うと教えるべきだろうが、意味がないだろうとクロは一先ず流した。
「そして理由その二。火薬を増量して威力を上げる手もあるけど、材料もないし、下手したら暴発するかもしれない」
「暴発?」
「火薬の爆発が大きすぎて、銃が耐えきれずに壊れること。最悪持っている手が吹っ飛ぶ」
うげぇ、とリナはつまんでいた弾丸を座卓に落とした。
「じゃあ最後に理由その三。小型の拳銃そのものが携帯性と間接的な射撃用途に特化しているから、わざわざ細工した弾丸の需要がほとんどないってこと」
「携帯性は、隠し持てるってこと?」
ようやく理解できたリナの発言に、首肯するクロ。
「じゃあ、間接的な射撃用途って何?」
「暗殺」
「ああ……納得」
そういや昔も、隠し持ってた銃で悪徳警官殺したっけ。
リナは過去を反芻し、改めて自らの拳銃を眺めた。
「むしろ拳銃用のオプションをつける方が主流なんだよ。ところで、この前使った
「そうだな~」
点検も含めて、関連するものを全て畳の上に広げているのだが、元々護身用として持っていたので、メンテナンス用のものが大半だ。
その中から、リナはまだクロに見せてなかったものを取り出した。
「あとはこれくらい?」
「ロングマガジンか……」
差し出されたのは、リナの拳銃用の弾倉だったが、その長さが違った。本来使っているものよりも長く、グリップからはみ出してしまうくらいだが、その分込められる弾の数が違う。
「闘うならこっちにした方がいいかもね。弾数が多い分、攻撃回数も増えるし、弾倉を入れ替える回数も減るから」
「ふむふむ……」
「後は、護身具だよね……」
弾倉を置いて、クロは懐からビー玉大の丸い玉を取り出した。色は黒だが、周囲には何かが埋め込まれていた。
「壁か何かに強く擦りつけてから、すぐに投げつけて。いくつかあるから、なんなら闘う前に試してみてもいいし」
「ふぅん……なにこれ?」
不思議そうに玉を摘んで眺めるリナに、クロは一言だけ答えた。
「秘密兵器」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます