ライフ・アップデート
渋柿塔
プロローグ
欲しいモノはあるか?
その声は、三時限目の現代文の授業中──机に突っ伏して眠っている
(欲しいもの……強いて言うならば才能かな)
心の声でそう答える。
ならばそれを手に入れてみては?
(どうやって)
思わず吹いてしまいそうになるほど簡単に言ってくれるものだから違和感を覚える。
それは単純なことだ──。
「起きろ!」
「いたっ」
現代文の先生の大きな手が景壱の肩を引っ叩いた。
「授業聞いとかんとテストで赤点取るぞ~」
教壇へ歩みながらどこか諦めにも似た声色でそんな捨て台詞を吐いた。
赤点を取る。その言葉は浮かれやすい高校一年生たちに危機感を与える。けれど、彼──景壱は違っていた。
赤点と聞いても上の空。どこか空想上の生き物でも想像するかの如く無意味なことであった。
やる気や悔しいと言うような向上心的な気持ちは小学生時代に置いてきていたのだ。
周囲には天才が多く、景壱が理解に苦しむ難問をさぞ当たり前に解く同級生を見続けた結果だろう。
テストで点数が悪くても何の感情も湧かないのは仕方のないことなのかもしれない。
周囲の天才たちが100点を取って先生に褒められていても、自慢してきても興味がない。
その興味のなさは、やるだけ無駄、限界だ、と目の前の現実から完全に放棄した言葉を無意識に言い聞かせていることが原因であろう。
(もし、欲しいものが手に入るのなら、ずば抜けた才能が欲しいな)
向上心を置いてきた彼でも、少しはやる気があるのかもしれない願いを思うのであった。
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