第7話


 横目で通り過ぎるガラクタを眺めながら、思わず目が、四季が使いそうなものを探してしまう。彼は何が欲しいと言っていたか。およそのものは自分で調達するか、厘堂さんからもらうかするため、僕には細かい部品のことはよく分からないのだけど、寝込んだ彼を少しでも笑わせたいと思ってしまう。

 修理屋として僕と二人でコンビを組んでいるものの、実際に修理をするのは四季だけだ。

 家事もまともにできない僕が何かを弄れば直る物も直らなくなると言われ、事実何度か手伝おうと試みたことはあったが、危うく原型にすら戻せなくなりかけたために早々にそっち方面は諦めた。その代わりに、依頼品の受注を行う窓口や依頼品の配達と、お客さんに関わる部分を引き受けた。

 僕が四季と出会ったのは、夏兄のもとに僕が引き取られた時その店に彼がいたからで、最初は彼一人があの家で一人暮らしていた。僕はと言えば、夏兄の店の空いた部屋に、店を手伝いながら住まわせてもらっていた。

 他人とあまり関わろうとしない四季が一人で修理屋を営んでいた時に窓口をしていたのは夏兄で、四季は自分を拾ってくれ、世界に順応させてくれる夏兄に大きな恩義を感じていた。

 だから、僕が四季のもとで仕事を手伝うのはどうか、という夏兄の提案に四季は反対しなかった。

 無理やりにでも話しかけてくるナズナとはそこそこ仲良くなったものの、始終発している話しかけるなオーラに畏怖してほとんどの人は四季を遠巻きにする。最初は僕もそうだった。

 夏兄の店に来てもラーメンを食べるわけではない。人前でご飯を食べることに抵抗があるようで、彼は基本的に誰かがいる場所で食事をしない。それなのに毎日SEASONに来るのは、夏兄が一人暮らしをする際に出した条件のようだった。

 カウンターの一番端に座って、時々話しかけてくる夏兄やスノーに答えながら本を読んでいた四季はとても近寄りがたくて、僕とは最初に挨拶した時以外ほぼ会話もなかった。それでも夏兄に目をかけられている彼がとても気になって、僕は食器洗いをしながらもチラチラ様子を窺っていた。

 そうやって喪失者として暮らし始めて、二か月ほど後の話だ。

 ――ずっとニコニコ笑ってんの、癖?

 ゴミを捨てるために外まで出た僕と、店を退出した四季が図らずとも一緒になった時にそう聞かれた。

 ――温厚そうに見えるし、周り皆それで満足しているようだから別にいいけど、その必要がない時も笑顔が崩れないって何考えてるのか分かんなくて怖え。

 ボソリと呟かれ、張り付いた笑顔のまま固まってしまったことを覚えている。

 ――頼むから笑うなよ。笑いたい時だけ笑えよ。夏さんや他の奴らの前ではやりにくいなら俺の前だけでもいいからさ。

 殺し文句だ。四季がどんな思いでこれを言ったのかは分からないが、思い返すと赤面ものだ。思い出話として改めて四季に話すとぶん殴られる話でもある。

 そんなこんなあって僕と四季は話すようになり、と言っても僕が懐いたのだと夏兄には言われていたが、今では渉外を引き受け、コンビとして仕事をするようになったのである。

 四季は僕を僕でいさせてくれる人で、だから僕は彼に必要としてもらいたいのだろう。

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