箱庭世界
カタスエ
第1話
雨がざあざあと降る夜だ。時計の針は夜十時を回った頃。門限まであと二時間しかないせいか、多くの店は閉店の準備に取り掛かり、歩く人もまばらだ。
家を出る前に同居人の
彼女と触れた肩がほんのり温かくて思わず微笑みが零れそうになる。傾けた傘のせいで、もう片方の肩に滴が落ちてきたとしても。
「
唐突に、少女の顔がこちらに向き、すぐに傘を持つ手に視線が動く。それからほんの少しだけ眉間に皺を寄せ、僕より一回りも小さそうな手が、さっと僕の手に被さった。一瞬で心臓が跳ね上がり、呼吸が止まる。何か声を発しようとするより早く、傘の位置が修正されてしまう。左肩に流れ落ちていた滴が、何事もないかのように、背後に滑り落ちていった。
「すでに厚意に甘えているのに、これ以上迷惑をかけるなんて嫌です」
彼女は気の強そうな声でそう言って、それからニコリと笑う。
「でも、ありがとうございます」
——ズルい、反則だ。
これは、一目惚れというやつなのだろうか。
見惚れてしまったことを誤魔化すように正面を向き、「うん」とだけ呟く。
眼前にあるのは、今ではたぶん誰も住んでいない、朽ちかけたビルの外階段だ。彼女が屋根で濡れない位置に立ったことを確認してから、傘を閉じ、軽く振って水気を飛ばす。それからすり抜けるように彼女の前に行き、僕はゆっくりと階段を上り始めた。雨音の中、背後に足音がついてくるのを実感して、静かな幸福がじんわりと心に広がる。くすぐったい気分が頬を弛ます。振り返りたい衝動と、振り返ったら消えてしまうような不安感が同時に沸き立つ。背中がむずむずとした。
帰ったら四季に何て言おう。何と言われるだろう。
唯一の気がかりが、甘い幸福感に緩やかな膜を張る。きっとあいつは眉を寄せ、不機嫌な顔をする。でも否定はしない。それは確信だった。だからこそ、僕は今こうすることを止められない。彼は果てしなく僕に甘いのだ。それを分かって困らせる僕は酷い奴だろうか。
不安定に体重で軋む階段の三階地点で、僕はビル内へと通ずるドアを開いた。そこで漸く振り返り、少女を見やる。彼女は一度足を止めて僕を見上げる。それから、僕がドアを開けて待っているのだと気付いたのか、小さな会釈と共に足早に内部へと足を進めた。僕は腕にかけた傘からポタポタと雫が滴るのを一瞬見てから、僕を待つ彼女を先導するため、ドアを閉めてまた歩き始める。
カチカチと消えかけた電気に虫がぶつかる音がする。四季が言うには、こんな朽ちたビルでも、ある程度整備をし、管理所に届け出をすれば電気を流してもらえるらしい。
肩越しに、少女がきちんと僕の背中を追ってくるのを確認して、廊下をひたすら直進していく。廊下の突き当たりに位置する場所はすっかり壁が崩れ落ちていて、足元に転がる瓦礫の向こうには、同じように壁を無くしたビルが口を開けて聳えている。びゅうびゅうと音を立てて風が僕たちを撫でていく。ビルとビルの僅かな隙間から雨が入り込んで来る。
まさしく道なき道である。
少女を窺う。彼女の足元が、ナズナがいつも履いているようなヒールでないことに安堵した。彼女の顔色も別段この道に違和感を抱いているようには見えない。それはいくら記憶を無くしていても、彼女がこの世界にいたのだという証に思えた。
僕も、こうだったのだろうか。
ふと感じて思い返す。しかし、もうそんな前の感覚は思い出せなかった。
心にぽっかりと穴が空いているような、喪失感と虚空感。痛むモノすらそこにはない。思い出すものは何もない。
ほんの少し感じたそんな感傷を振り払い、瓦礫の上を先立って歩く。数歩先で振り返ると、足場を探して視線をさ迷わせる彼女がいた。
その様子を瞳に映した瞬間、なぜか唐突に泣き出したくなった。息が詰まり、彼女を見詰めたまま、動けなくなる。ひゅっ、と喉の奥で音がする。顔に血が集まるように熱くなり、頭がぼんやりとした。
ごくりと唾を飲み込む。震える指先を彼女に伸ばす。手のひらを上にして差し出した僕のその手を、彼女の目線が指先から顔へとゆっくりと移動する。
目が合うのと同時に、まるで熱に浮かされたような気分だった頭がさっと冷めた。どこかで経験したような感覚だった。風に運ばれ、頬についた雨粒を反対の手の甲で拭う。戸惑う少女に向けて微笑む。
「大丈夫」
彼女はほんの少し不安そうに顔を俯かせた後、遠慮がちに僕の手に掴まった。彼女の手は冷えきっているのだろうけど、僕の手も相当冷たくなっていたからよく分からない。それに、彼女の掴み方はすごく弱々しくて、触っている感触がほとんどなかった。
頼られている、という気分は全くなかった。初対面の人間に警戒しているというようでもない。ただ単に、彼女は僕に最低限しかすがらないようにしている。そう分かる。
ビルとビルの間、一メートルほどの隙間を跳び越えて反対のビルに移った。ジャンプする刹那だけ、離れそうになった彼女の手を握り締め、自分のもとに引き寄せる。微かに少女の腕が強ばった気配がしたが、地面に着地した瞬間に僕も彼女も、自然と手を離した。何事もなかったかのように。
こっちのビルに至っては、ほぼ外へと向かう左側の外壁が崩れ、鉄骨が剥き出しになっている。所々壁があっても、窓ガラスは割れて地面に煌めいていた。
その上を踏みつけ、ジャリッとした感触を足の裏に感じながら前へ進んでいく。右側に立ち並ぶドアの一つ、その前で足を止めた。表札はついていない。
思い出したように、全身に緊張と仄かな幸せが駆け巡り、思わず震えた。少女が僕の後ろで僕を見上げた。見られている部分に、温度を取り戻すようなむずがしさが沸き起こる。彼女にそれを知られないように深く息を吸ってから、ドアを開けた。
吹き付ける雨を背後に感じながら、これだと彼女が濡れてしまうなと思い至った。既に今さらな杞憂には違いなかったが、僕の真後ろに立っていた彼女の背を押し、僅かでも壁沿いに押しやる。僕が触れるたびに、一瞬だけ強張る彼女に何とも言い難い切なさを覚えた。なぜ。どうして。
「ただいまー。四季いるー?」
玄関には上がらずに、外開きのドアを自分の体で押さえて叫ぶ。開けた先に見えるリビングには飾り気のない最低限のもの、薄汚れたソファが一つとテーブルしかない。奥に位置するキッチンも無人だ。と、いうことは奥にいるのか。音はしないが作業中だろうか。
もう一度息を吸い、呼ぼうと口を開く。それと同時に、キッチン横の扉が開いた。
彼は、工業用の大きなゴーグルを首から下げ、女の子のように華奢な体にだらしがない、くたびれた黒いジャージを纏った姿で現れた。いつも通りの格好ではあるが、その薄汚れた服装はあまり女の子に見せるものではない。とは言え、僕の持ってきたものは厄介事に違いなく、文句を言う筋合いはない。彼もそんなことを気にするような性格ではないだろう。
「何だよ? 別に依頼もんさえ濡れなきゃ部屋が濡れようとお互い気にしねえだろ? タオルくらい自分で取れよ」
そう言いつつ、彼は玄関までタオルを持って来てくれるのだから人がいい。お帰り、と言いながら押し付けられたタオルを礼と共に受け取る。彼からは見えない位置だろうが、念のため少女を隠すように体をずらす。
「つーか、お前傘持ってったんだろ? そんなに濡れるほど雨強いのか」
雨が染み込み、色が変化した僕の服を見て彼が言う。僕の腕にかかっていた傘を取り、玄関の傘立てに立てた。
「まあね」
曖昧に笑いながら、どうしようかと考える。何と言うのがいいだろう。どう言ったら納得してくれるだろう。そう逡巡していると、奥の部屋に戻ろうとしていた四季が顔だけで振り返り、怪訝そうに首を傾げた。
「春。早く入ってドア閉めろよ。吹き込む」
「あー、うん。そうだね」
気持ちだけ背後を窺うも、彼女の姿は気配だけで見えない。もうどうしようもない。連れて来たのは僕なのだ。
さっきまで感じていた幸福感が、静かにしぼんでいく。強風に煽られた窓の音を聞くような、心もとない気分。しかし、疾しいことはしていないはずだ。そうだろう、春。自分に尋ねて気持ちを奮い起こす。決心を決める。
「あのね、四季。怒らないで聞いてね」
それでもこう切り始めてしまう、あまりの自分の情けなさに苦笑しそうになる。四季が想像通り、眉間に皺を寄せた。体ごとこっちを向いて、不機嫌そうにジャージのポケットに両手を突っ込む。
僕はドアをほんの少し閉めるようにして一度体を退かす。そっと様子を窺うと、彼女は心配そうな顔で僕を見ていた。彼女には僕しかいないのだ。僕だけが、この世界と彼女を繋ぐ唯一の鎖。頼られているのだと思うと、少し落ち着く。大丈夫。そう囁いて、彼女の頭を撫でた。彼女は逃げ出さない代わりに、首を竦める。嫌がっているわけではなさそうなのに、この掴めない距離感。奥歯を噛みしめると、少女の頭から背に手を下ろし、玄関へと優しく押し出した。
彼女を見た四季の顔が、さっきよりも訝しげになった。
「女の子、拾って来ちゃったんだ」
上目遣いで申し訳なさそうに言うと、四季の表情が固まった。その瞬間に全てを理解したようだった。
「お前……」
何かを言いかけたように口を開き、しかしすぐに閉じてしまう。苦いものでも食べたみたいに顔を歪め、僕から顔を背けた。そのまま完全に口を閉ざしてしまう。その場から動きはしないものの、何かを耐えるかのように、地面を睨み続ける。
四季は僕に甘い。大抵のことは苦い顔をしながらも了承してくれる。
ただそう思っていた僕は、想像以上の反応に戸惑っていた。そんなに迷惑がられるとは思っていなかった。途端に大きな不安が僕を捕らえていく。嫌われる。嫌われる。嫌われる。四季。
僕の目の前には少女がいる。少女は四季を見詰めている。僕は、何も言葉が見つからなくて、彼らを見ていられなくなって、視線を落とした。少女の濡れた髪から、僕の顎から、水が滴って地面に濃い染みを残していた。
「拾って来たって言ったって、どうするんだよ」
長い沈黙の後、漸く四季が掠れた声でそう言った。
「だ、だって四季。こんな雨だよ? 外に放って置いたら風邪ひいちゃうよ」
また沈黙が来るのを恐れて、僕は早口で言った。そうでしょ? そんな気持ちを込めて四季に訴える。
「明日の朝になれば、管理所の奴等が喪失者の回収に来る」
「でも……」
僕が反論しようとした瞬間、そっと袖が引かれた。いつの間にか、少女が振り返って僕を見詰めていた。さっきまでの不安に歪んでいた顔はどこにもなかった。強い瞳だった。決意を込めたような、しっかりした目だった。
僕は口を引き結ぶ。彼女の顔から逃げるように顔を上げ、四季を睨み付ける。けれど、口を開くと恨み言や情けない懇願しか出ないことは分かっていた。だから震える喉や唇を硬直させたまま、彼に目で訴えた。
四季は静かな顔で僕を見ていた。全てを見透かされるような、そんな気分に陥る。しかしそれは嫌な気持ちではなかった。むしろ、何もかもを知っていてくれる人がいるのだという安堵。すうっと熱くなった感情を冷やしてくれる。震えていた部分が、ゆっくりと落ち着いていく。
もう一度、袖が下に引っ張られた。
「春さん。もう」
「じゃあ」
彼女の声と、四季の声が重なった。彼女が僕の服から手を離して、四季に向き直る。
「じゃあ、お前は彼女をどうしたくて連れて来たんだ? 取り敢えず一晩泊めるとする。一晩くらいは俺とお前がソファで寝ればいい。でも明日はどうする? 明日になって、はい、じゃあサヨナラって。そんな無責任なことをするのか。生活できるような部屋はこっちとそっちの二つしかないんだぞ。彼女だって知らない男の家でなんか落ち着いて生活できないだろう。こんなところに連れて来てもその子が可哀想なだけだ」
四季が、強い口調で言った。その言葉に頭を強く殴られる。ハッとした。
何も考えていなかった自分が、唐突に恥ずかしくなる。僕はただ……僕は。
雨の音が響く。大粒の雨の中、僅かな庇の下で縮こまる少女。虚ろな瞳がぼんやりと宙をさ迷う。そこにいるという事実が彼女の現状を表す。何の意思もないような表情。
彼女を、連れて行かなくちゃ。
何故か、強くそう思った。
どうしたいとか、そんな理由なんてない。ただ、彼女を見つけた瞬間離れたくないと感じてしまった。
――僕の家に来る?
傘を差し出し、声をかけて。彼女の顔が僕を見る。初めて気付いたように、ゆっくりと焦点を合わしていく。長い間見詰め合って、時々瞬きをして。彼女の長い睫毛が三回影を作って、それから、コクンと頷いた。うっすらとふんわりと徐々に笑みが広がる。意思が灯る。
僕は。
顔を伏せる。俯いて、顎が痛くなるほど奥歯を噛み締める。
「春?」
一瞬、誰に声をかけられたのか分からなかった。弾かれたように顔を上げる。心配そうな瞳を浮かべた四季がいた。
「あ……ごめん」
……ああ。駄目だ。頭がぐるぐると回ってぼんやりとする。記憶が蘇る。雨の中で傘を差し出される。僕は見上げる。どこかで叫び声が聞こえる。温かな温度が僕を包む。
これは、
「春」
強く名前を呼ばれた。春。
四季の顔を見て、彼の吸い込まれるような黒い双眸に見詰められて、回想は途切れた。
戸惑うように少女が僕を見上げている。ここは、雨の中じゃない。
四季が何かを吹っ切るような盛大な溜め息を零した。
「
ガリガリと頭を掻きながら言う。
「それでいいだろう?」
ぱあっと、胸の内に広がっていた不安が嘘のように引いていく。自然と笑顔になった僕を見て、四季は呆れたようにふっと表情を緩めた。ゴーグルを外し、ボサボサの髪を乱暴に手櫛でとかす。
「ありがとう、四季」
「俺は何もしてねーよ。まだ夏さんに了承された訳でもないし」
肩を竦め、それから僕が握り締めていたタオルを奪う。
「分かったらさっさと行くぞ。俺はちょっと用意してくっから、その間に顔くらいきちんと拭けよ、風邪ひくだろ。傘も三本持ってけ」
僕の顔面に押し付けられたタオルがじんわりと水気を吸い取っていく。目に入らないように瞼を閉じながらも、改めてタオルを受け取り直す。
四季は、僕が少女の代わりに雨に濡れたことをちゃんと分かっている。
「でも四季。外、ほんとに雨強いよ。出て平気? 俺一人で行ってくるよ」
タオルで濡れた髪を拭きながら、ふと思い至って顔を上げる。
四季は雨が苦手だ。ただ嫌いなだけならいいが、雨に当たると体調が悪くなってしまう。熱が出る訳ではない。しかし、動くのも嫌そうにベッドに引きこもる。だからこそ今日は、日課となっている夏
いくら傘を差しても全く濡れないという訳にはいかない。特にここから夏兄のところに行くためには、濡れる覚悟は絶対だ。いつもの様子を思い出し、上目で彼を窺う。正直、夏兄の店に一人で行って頼み事をする勇気はない。夏兄は僕の恩人だ。とても良い人だ。だけど、困らせて嫌われたら。もし、嫌だと言われたら。尻すぼみになった言葉に四季が呆れたように肩を竦める。
「途中まで話聞いたら俺も同罪だ。この子が他へやられんの見るのも落ち着かないしな。一緒に行って頼んでやるから安心しろ」
それから面倒臭そうに、向こうの部屋へと続く扉に目を遣った。
「レインコートの下にタオルでも被っときゃ大丈夫だろ。遠回りもしなくていい。どうせ少し濡れればおかしくなるんだ。一緒なら長時間雨に曝されたくない」
そう言い残し、四季は僕達を玄関に残したまま向こうの部屋に消えた。
「寒く……ない?」
彼がいなくなり、訪れた沈黙に耐えられずに口を開いてみる。僕の肩ほどではないにしろ、彼女の肩口も、雨に濡れて色が変わっていた。
タオルと彼女を見比べ、慌ててタオルを彼女に差し出そうとする。しかし思い直して、自分が使ってない面を広げてから彼女の頭に被せた。
彼女の顔がタオルの下から覗いて、微笑む。
「ありがとう、ございます」
たったそれだけで、ふわふわ浮き足立つような心地が広がっていく。それが足元からじわじわと全身に登っていくようで、むずむずする。この感覚を、どう自分の中で消化すべきか分からなくて意味もなく何度も頷いた。
立て付けのあまりよくない扉が開き、四季が戻ってきた。透明のレインコートの下にはパーカーを帽子まで被り、さらにその下にはタオルを被っている。その上大きめのマスクまで着けている。
手にはバスタオルを持っていた。
僕と少女を見ると、何も言わずに彼はそのバスタオルをソファに投げ置く。
「行くぞ」
テーブルに置いてあった鍵を手に取り、僕達のいる玄関に向かって来る。僕は慌てて彼女の頭に乗せていたタオルを床に投げ捨てると、傘を三本手に取り、外へと再度飛び出した。
目の端に、四季が持ってきたバスタオルがはっきりと焼き付いた。それを無視して外気の中に身を晒す。湿気が体にまとわりつく。
夏兄の店は僕らの家から最短距離で二十分ほどの場所にある。
廊下の端にある階段に、自分が筆頭として向かう。屋上まで登り、さっきのように隣のビルに移る。今度は、飛び移る時に手を貸さなかった。貸せなかった。彼女は最初こそ、足場を探すものの、安定しさえすれば、危うげもなく飛び移る。四季も、それが当然のように目を向けない。だから僕も何も言わなかった。
移ったビルを一階降り、階段から一番近い部屋に入る。そこでようやく立ち止まった。この道で夏兄の店に行くには、窓から隣のビルの屋上に飛び降りなくてはならない。
「本当に平気か? 四季」
四季が飛び降りる準備のように手首と足首を回す。屋上は、突き刺さるような雨が打ち付けている。ここまででもだいぶ雨に当たっているが、ここは今までの比でない。濡れるために通るようなものだ。
四季がマスクをずらし、ニヤリとした。
「ま、体調悪くなったらお前が仕事やってくれよ」
雫が落ちる傘を僕に押し付け、窓の桟に片足をかける。
「やだよ。僕は」
「心配すんな。死ぬ訳じゃあるまいし。つか、俺よりそっちの子の心配をしてやれよ。今までの様子じゃ慣れてるようだけど」
僕を宥めるためにか、呆れたような笑みを浮かべ、そして次の瞬間には空に舞った。軽やかに着地し、屋根のある階段まで素早く移動するとこちらを見上げる。顎で、早く来るようにと合図してくる。
僕は小さく嘆息し、自分と四季の傘を彼の元へと投げる。アーチを描き、彼は難なくそれらをキャッチした。
「大丈夫? ごめん、こんな道で。無理そうなら遠回りするけど」
窺うように少女に声をかける。
彼女は、彼女は四季に見惚れていた。少なくとも僕にはそう見えた。雨の線の中、彼女の瞳は一心に彼に注がれていた。僕が声をかけるまで、そうしていることすら気付かなかったみたいだった。驚くように肩を震わし、こっちに顔を向ける。僕は意識して、頬の筋肉を動かす。
「大丈夫そう?」
柔らかく微笑んで、尋ねる。
少女はハッとした様子で傘と僕を交互に見やり、窓の外へと視線を動かした。屋上では、四季が傘を投げるようにと指差している。強く頷き、少女が傘を放る。吸い込まれるように、傘が彼の手に落ちていく。
そして、僕は息を止めた。
気付いた時には、彼女は雨天に飛び立っていた。心配も、気遣いも、何もする余地がない。鳥のように、このまま飛んで行ってしまうかと思った。それくらい、束縛のない自由さを感じた。
唇が乾いてガサガサになっていた。唾を飲み込み、吹き込んで顔を濡らした雨の雫を袖で拭う。
ふわりと彼女が屋上に降り立つ。衝撃を吸収するように屈んだ格好で、僕を見上げていた。
止まっていた時間が返ってきたように、今まで忘れていた雨音が鳴り響く。少女が四季の方へと走るのを見て、僕は力強く飛び降りた。
全身が雨に晒され、叩き付けられるようだった。痛みを感じながら、落ちるように地面を踏む。張り付く髪の間から、二人が僕を待っていた。狭いからだろうか。寄り添うように立つ二人に、近づくのを戸惑う。しかし、そう思ってしまったことを知られないように、僕は彼らの元へと走り寄って行く。
傘を受け取り、今度は四季を先頭にして歩いて行く。階段を下り、エレベーターに乗る。
チカチカと瞬く電気。ギシギシと揺れるエレベーター。密室の空間で、湿った空気に押しつぶされるように誰も口を開かなかった。僕も、エレベーターの立てる不吉な音に集中するふりをする。
このエレベーターは今にも壊れそうという状態をもう数年耐えている代物だが、本当に壊れてしまう前に直さなくてはならない。四季は細かいものが専門だから、この規模だと、
この世界で一番人数が多く、一番儲かるのは修理屋だ。四季もそれの一人である。だから人数だけはいるはずだが、僕は四季さえ要れば不便しないのであまり知り合いはいない。自分は人見知りもしないし、社交的だと自負している。顔も広い。対し、修理屋というものは全体的にあまり社交的ではないようだ。仕事を受けるのは全て管理所にある掲示板から、という人もいる。そういう訳か、修理屋の顔を僕はあまり見たことがない。
ギシ、とあまり良くない音を立ててエレベーターが停止した。表示階数は四.五階。四階と五階の間。最も五階、なんて階はここに存在していないのだけど。ここの上の階はもう六階だ。その六階も最早危うくて立ち入れない。
僕が生まれるずっと前、それが何年前なのかも僕には分からないが、その頃には五階もあったのだろう。しかしこの街がこんな風に寂れていく流れに巻き込まれ、五階の床は抜け落ちた。そうしてできた瓦礫を取り除かずに、砕いて均してそのままコンクリートで固めた有り様がこれだ。階数ごとの高低さがバラバラになってしまっている。この階は面白いぐらいに天井が高い。エレベーターは一度修理されているはずだが、それが何年前かと言うとよく分からない。
ゆっくりと扉が開いていく。夏兄の店はエレベーターを降りて、右に曲がった突き当たりだ。とは言え、この階には夏兄の店しかないために、フロア全部が夏兄のフロアと言っても間違いはないだろう。
夏さん。この少女と同じように喪失者となっていた僕を拾ってくれて、兄になってくれた人。年は二十三で、僕の四つ上。五年前に僕を拾ってくれた時から、夏兄はここでラーメン屋を営んでいる。
相変わらず四季を先頭に店の前までやって来る。扉に嵌め込まれたガラスには白い文字で『SEASON』と書かれている。ラーメン屋にはあまり似つかわしくないその店名は、僕が夏兄に会ってから一ヶ月くらい後につけられた。それまでは店名なんて存在しなかった。
ノブを回して扉を開けると、むわっとした、蒸気が籠ったような温風が顔を撫でた。空調が機能しきっていないために、滞った空気が纏わりついてくる。しかし、同時にラーメンの美味しそうな匂いが鼻腔を刺激した。
入って右にあるカウンター内にいた夏兄が顔を上げた。こっちを向いてにっこりと笑う。
「いらっしゃい」
――ドクン。
喉元まで響く心音が緊張を訴え始める。
瞬間、少女の存在を感じる背中がむず痒くなった。振り返れない。足が硬直したように動かなくなる。一気に口内が乾いていく。
言わなくちゃ言わなくちゃ言わなくちゃ。
でも、もし、断られたら?
そうしたら。
もし、そうなったら。
早鐘を打つ心臓がうるさい。体温が上がったり下がったりを繰り返しているように、気持ちが悪い。眩暈がして、手足が震えた。
「どした、春。大丈夫か、体調でも悪いのか」
心配するような夏兄の声がする。大丈夫、そう言いたいのに声が喉に絡まる。
腕を掴まれた感覚で、自分が俯いていたことが分かった。顔を上げ、声の方向を見る。
「し……き」
四季の黒い瞳が僕を見詰めている。掴まれた腕が、さらに強く握られた。四季の顔が夏兄の方を向く。
「今日は夏さんにお願いがあって来ました」
夏兄がその声を聞き、作業をしていた手を止めた。張りつめた空気が店内に広がり、目を瞑りたくなる。
「ほう。可愛い子だな、彼女か」
その時、下世話な声がカウンターから声を掛けてくる。声の主はビールのジョッキを呷ってから、盛大に息を吐いた。
「ちょっと前まで乳臭えガキだったってえのになあ」
真っ赤な顔をしたその中年男性は、
「太一さんはいい加減酒をやめて下さいよ。これで何杯目だと思っているんですか」
「あ? まだ十にも満たねえじゃないか」
夏兄は諦めて彼のジョッキを取り上げ、水の入ったグラスと交換する。太一さんは不服そうに鼻を鳴らしたが、取りつく島もない夏兄に諦めたのか、こっちに再度向き直った。
水商売を快く思っていない夏兄と太一さんの気が合うのは不思議でならない。仕事の話を始めると一気に不機嫌になる夏兄に対し、太一さんは面白そうに挑発を繰り返す。一回だけ出入り禁止にしたことがあったが、構わず店に入ってくる太一さんに夏兄の方が折れた。太一さんの店の女の子やお客さんが、ここの客の中心であることも一つの理由ではあるだろうが、結局夏兄も太一さんのことは嫌いになれないようだった。しかし、未成年だから、と僕たちが夏兄の店に行くときに下から行くことは許してくれない。仮に夏兄が許しても、二十歳を超えるまで風俗店は、通ることさえ認められていないからどちらにせよ無理な話ではあるのだが、そのために、ここに来るにはビルとビルを渡って行かなくてはならないのである。もっとも、未成年じゃなくなっても、夏兄に止められなくても、僕が太一さんの店に行くことはないだろう。あそこの女の子はみんな優しいし、ナズナもいるけど、やっぱり僕は行きたくない。いや、あの子たちがいるから行かない。僕は、自分の知らないナズナなんて見たくない。
「どうよ、彼女。俺の店で働かねえか? あんたならいい値段稼げると思うぜ」
太一さんが、少女に顔を近づける。それを見て総毛立った。ざわりと嫌な気分が体中を駆け巡って、思わず彼女の前に腕を伸ばした。
「彼女に触らないで下さい」
自分の出した声の鋭さに自分で驚いた。
けれどお蔭で決意が固まった。そのままの勢いで夏兄に視線を向ける。
深く、頭を下げた。
「この子をここに置いて下さい」
膝に頭が付くかというくらい深く頭を下げる。瞑りそうになる目を開け、唇を噛みしめる。隣で少女が同じようにお辞儀をしたのが横目に見えた。
「お願いします」
凛とした声が続く。
彼女の声を聴くだけで、僕の心が落ち着いていく。同時に涙腺が刺激されるように泣き出したくなる。静まった心の奥の奥底でふつふつと湧き起こる熱さ。彼女の顔が見えないのに、彼女が真摯に頼み込んでいる様子が思い浮かぶ。なぜか切なくて堪らなくなる。気付けば唇から血が滲んだ。
「俺からも頼みます」
痛々しい四季の声が隣で聞こえた。下げた頭をほんの少し右に向けると、同じように左を見た四季と目が合った。目が合うと四季は視線をすぐに逸らし、地面に落とす。僕はしばらく四季を見つめ、それから同じように目を落とした。
「お願いします」
もう一度繰り返す。
夏兄が戸惑うような空気を感じた。当然だ。僕は何も説明していない。けれど、何から説明していいのか分からなかった。頭の中を雨の音が響く。それ以外はひたすら静寂で、思考が働かない。僕はただ頭を下げることしかできなかった。
何分そうしていたかは分からない。足音が近づき、僕の前で止まる。ゆっくりと顔を上げると、無表情で僕を凝視しているスノーがいた。
綺麗な顔が僕を見降ろす。何も読み取れない黒い瞳。
「その子は喪失者?」
淀みのないハスキーな声が尋ねる。
「そう」
強く頷いて、口に溜まった唾液を飲み下してから続ける。
「廃品広場で会ったんだ。雨が強くて、風邪ひいちゃうから。でも、僕の家は四季と二人だから。部屋もなくて。だから、でも……」
上手く言葉が出てこない。もどかしくて、自分の頼りなさに反吐が出る。言いたいことはたくさんあるのに、思っていることをどう言っていいのか分からなかった。気持ちばかりが募って、焦燥感ばかりが広がって、息が切れる。悔しくて、歯がゆくて、呼吸とともに肩を上下する。
「一人にしたくなかったんだ」
絞り出すようにそれだけ言った。
口に出した途端、脱力した。そうなんだ、と自覚して、頭がそれでいっぱいになる。彼女が隣にいること。出会った瞬間にその未来を感じたこと。それが真実で願いなのだ。
スノーは何も言わずに僕の前から離れ、夏兄を見上げた。彼の答えを待っているようだった。夏兄は僕を見て、少女を見て、四季を見て、もう一度僕を見た。
「俺も四季や春を拾っているから何も言えないけれど、これは俺が勝手に決めていいことじゃないよ。家がないなら一晩くらいは泊められる。けれど、俺たちと家族になって今後ここで生活していくかどうかを決めるのは彼女だ。今は寄る辺がないから、春や四季につられてここへ来たかもしれない。何もない中、道を明確に提示されたらそっちへ流れるのは当然だ」
真剣な顔で夏兄は言う。少女に顔を向け、身を乗り出すようにカウンターに肘を付くと視線の高さを合わせる。柔らかく微笑んだ。
「ここに来るなら歓迎しよう。アンドロイドではあるけれど、スノーは優しいし面倒見もいい。けれど、君は選んでいいんだよ。管理所へ行って、自分一人でまっさらな人生を作っていく方法もある。あえて俺のところを選ばなくても、道はいくらでもあるんだ」
「でも」
抗議を唱えようとした。けれど、僕が口を開く前に四季の声が夏兄に飛んだ。
夏兄の視線も、僕の視線も必然彼に向かった。四季は眉を下げて、何かを言いあぐねているようであった。困ったように頬を掻いて、助けを求めるようにスノーを見る。彼女は相変わらず静かに様子を見守っていた。
いつも忠誠的で自分の意見を絶対に言わないスノー。彼女の意志は夏兄の意志だけだ。
人工的な知能と感情を持ち、血液ではない機械の熱さしかない彼女。アンドロイドと呼ばれる、生身の人間ではない少女。
この世界でアンドロイドは決して珍しくない。どころか持っていて当然の代物。法律で一つの家族につき、一つ以上のアンドロイドを所有することが義務付けられている。もう僕が生まれるずっと前に設立された法律だ。僕にとってそれは、既に当たり前の事実過ぎて、彼女たちがいることに対して何の疑問も抱かないし、政府が何を理由にこの法を作ったのかすら、あまりよく分かっていない。世界なんて、そんなもんだ。受け入れることに慣れてしまえば、存在理由なんて気にしない。はずだ。
初めはまっさらで誕生する感情を、主との対話や社会で獲得し、学んでいく精神成長型のアンドロイド。五感のプログラムが埋め込まれているからご飯の味だって分かるし、花の香りも、人の体温だって分かる。消化なんかは人のそれとはさすがに違うらしいし、生殖機能はないために完全な人の代わりになることはもちろんできない。けれど、今いるアンドロイドがそういう進んだ科学の上でできている代物だということは明白だ。それなのに時々こう言う人がいる。どうせいくら奉仕しようとそれはそうするようにプログラミングされているからだろ。
スノーを見詰める。夏兄だけを信頼し、一心に奉仕するスノーは、そうプログラミングされているからそうしているのだろうか。
「ここに来たら、迷惑ですか」
しっかりとした口調が、僕の焦点を少女に戻した。彼女は背筋を真っ直ぐに伸ばして、強い光で夏兄を見ていた。揺らぎのない、真摯な眼光だった。息を飲み、夏兄の言葉を待つ。
夏兄はほんの少しだけ困ったように笑って、それから腰を伸ばす。
「夏が嫌なら俺が引き取ってもいいんだぜ?」
懲りずに太一さんが口を挟む。夏兄は彼の空いたグラスに水を注ぎ、
「あげません。……後悔先に立たずと言うけれど、決めてしまったら最後、もう後悔しても遅いんだよ?」
「もう腹をくくっています。春さんについて行けば大丈夫だと思った、その自分の感覚を信じています。何も持っていない私に信じられるものは、自分の感覚だけでしょう?」
夏兄が目を丸くして、それからふっと息をついた。
「……強い子だね。俺の負けだ。分かったよ、いらっしゃい。その代わり、ここに来るなら店の手伝いはしてもらうよ」
夏兄が両手を腰につき、苦笑する。ほっと僕が息を吐き、彼女も安堵したように微笑みを浮かべた。チラリと四季を見ると、彼も何かから解放されたように、放心しているようだった。
少女を連れてきた時に嫌な顔をしていた四季が、それだけ心配してくれていたことに僕はさらに安心を深めた。それなのに、モヤモヤとした感情が安心感に膜を張る。得体の分からない不安感。嫌悪感。
「決まったのなら、あんた。さっさと着替えなさい。風邪ひきやすいんだから」
サッとスノーが四季に近付き、腕を掴む。問答無用で四季を連れて行くが、途中で立ち止まり振り返った。少女を眺め、フリーズする。
「スノー?」
ほんの少しも身動きをしないスノーに、訝しんだ夏兄が近づく。それでも固まったままの彼女に、夏兄が慌てたように顔を覗き込むと、ゆっくりと瞬きをした。
「私は」
彼女に『迷う』という動作があるのかは分からない。分からないが、僕にはそう見えた。自分の考えを言うことを躊躇っている。スノーのそんな顔を初めて見た。逡巡した後、決意を固めたようにスノーが夏兄を見上げた。
「その子の名前、秋がいいです。春がいて夏がいて、でも私の前がいないから。四季は四つ合わせて四季です。SEASONは四つです」
それだけ早口で言い残し、逃げるように四季を引っ張って行く。そのまま、カウンター内部にある居住スペースへの扉を開いて消えた。
きょとんと夏兄と僕は顔を見合わせて、呆然とした。
スノーが、自己主張をしたのは初めてだ。夏兄の意見だけが自分の意見だったのに。
獲得する心が人間に近付いていくことは、きっと残酷だ。
夏兄が僕から視線を外し、スノーが去った扉を見詰める。名残惜しそうなその瞳に、ほんの少しでさえ所有物としての独占欲が浮かんでいるとは思えない。スノーは、夏兄にとってモノじゃない。そんなこと、絶対に口に出せやしないけれども。
夏兄は、僅かに口元に寂しげな笑みを浮かべた。それからそっと、視線を少女に戻す。少女は円らな瞳で大人しく夏兄を見上げている。
「だ、そうなんだけど、どうかな。所有アンドロイドはスノー。俺が家主で長男登録されていて、家は別だけど弟として喪失者だった四季と春がいる。でも決定権は君にあるわけだから、他に呼ばれたい名前があれば言ってごらん」
秋。
少女が呟く。僕も心の中で繰り返す。秋ちゃん。
春。夏。秋。スノー。四季。
四つ合わせて四季です。
少女が宙に視線を彷徨わせる。けれどすぐに口端を引き上げた。
「それがいいです」
それ『で』いい、ではなく、それ『が』いい。僕にはどうしてか、それがとても良かった。
「いいの? 今日はこんな雨だし、管理所には明日行くことになる。一晩考えてもいいんだよ」
夏兄は、あまりにも早い彼女の決断に戸惑ったように首を傾げてみせる。
「いくら悩んでも一緒ですから。呟いて、それがしっくりきたからいいんです」
潔い言い方は、土砂降りの中飛び立った様子と重なった。格好良かった。眩しくて、目を眇めてしまいそうになる。同時に、ものすごく引き寄せられて捉えられて動けなくなる。
彼女を求めてしまう。
少女の――、いや、秋ちゃんの頭を夏兄の大きな手が撫でた。
「分かった。歓迎します。秋」
秋ちゃんが漸く心の底から安心したように、満面の笑みを顔中に広げた。
「よろしくお願いします」
小さな音がして遠慮がちにカウンター内側の扉が開く。耳聡く夏兄が振り返るが、扉はそれ以上開かない。息をつめて見守っていると、こっちが驚くくらいに勢いよく押し開かれた。
転がるように姿を見せたのは四季で、夏兄のシャツと短パンに履き替えている。その後ろからスノーが顔を出す。手には真っ白なバスタオルと抱えている。夏兄の視線をあえて無視するように僕と秋ちゃんの前にバスタオルを差し出してくれた。今更ながら、張り付いた洋服の気持ち悪さを思い出す。素直に礼を言って受け取ると、スノーは秋ちゃんに向き直る。
「先に言っておきます。私のことはスノーと呼んでください。何かご用がある時はこちらに気を遣わずに声を掛けてください」
しゃきしゃきとそう言い、押し付けるようにバスタオルを手渡す。秋ちゃんはそれを受け取り、ふわりと笑った。
「ありがとう、スノー」
スノーは、表情を変えずに小さく頷くと、何事もなかったかのようにキッチンに戻っていった。
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