食について。

冬野 小雪。

ホットケーキ。

 小学生のころ、家に帰ると台所から香るホットケーキの温かい香りで、学校での疲れが溶けていった記憶はないだろか。


私はある。


 くたくたにくたびれて帰ってきても、台所からの暖かなホットケーキの香りで私の気分は上昇する。


ランドセルを脱ぎ捨てて、全力で台所に向かった思い出が懸命に残っている。


母が焼いたホットケーキは、甘い蜂蜜とバターのシンプルな見た目で、


鼻を躍らせる微かな甘い香りに夢中になって、がっついて食べて、むせ返って死にそうになったことがある。


子供時代の自分は食欲旺盛で、ぽっちゃりではなかったが、出されればなんでも口に入れてた覚えがある。


母の作るおやつは杏仁豆腐とホットケーキぐらいだった気がする。


ふわふわのホットケーキに期待を膨らませながらフォークで刺して、口いっぱいに詰め込み


ゆっくりと咀嚼しながら、その甘い魅力の虜になっていたのだ。


この寒い真冬の通学路でそんなことをふと、思い出した。


息を吐くたびに白い煙になって、静かに消えてゆく様をぼんやりと眺めながら、


子供時代の母の作ってくれたホットケーキが恋しくてたまらなくなった。


もう、母も仕事で忙しくて、ホットケーキを作ることもないだろうけれど、


思い出の味は永遠に生き続けるのだ。


コンビニで買ったホットケーキを食べてみたが、ホットケーキとうより、


ホットケーキに近いパンという感じがした。 


味は蜂蜜が濃くって、眉間のしわが寄った。


やっぱり、思い出の味をコンビニで済ませようとしたのがダメだったらしい・・・


思い出の味は永遠なのだ。

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