エッセイ EMPTINESS 原稿用紙4枚

CHARLIE

EMPTINESS

 わたしには、高校時代の思い出そのものが、まったくといっていいほど、ない。

 わたしはバレーボール部に所属していた。顧問は厳しく練習量も多かったけれど、同期も先輩も後輩も、みんな可もなく不可もなく、といった印象しか残っていない。四十歳になった今、付き合いのつづいている人は一人もいない。

 高校でも、例によって、わたしたちの学年だけがほかの学年に比べて一クラス多かった。わたしが通った高校は、地元では二流で、自由な校風が評判だった。しかし入学式の三日後くらいには、志望大学の調査を取られた。そしてみんなが無趣味でガリ勉ばっかりだった。わたしはそんな周囲のクラスメイトたちを見て、正直バカにしていた。当時からわたしは小説を書いていて、本もよく読んでいた。成績は悪くても目標のある自分の方がはるかに心は豊かだと信じていた。

 二年生からは、理系と、国公立文系と、私立文系とにコースが分かれた。一年生のときにロクに勉強をしていなかったわたしは、当然、受験科目の多い、国公立になんて行ける可能性はない。私立文系のコースに進んだ。しかしそこでもガリ勉ばかり。

 ある日、前の席の男の子に、

「英語の辞書貸して」

 と言われた。すると彼は振り返ってわたしに辞書を返すとき、

「きれいな辞書やな」

 と言った。

 つまり、

「全然勉強してへんねんな」

 という皮肉、イヤミだった。


 高校生にもなると、男女交際は中学のときよりもオープンなものになる。

 モテる子は、別れてもすぐに次の彼氏ができるのに、わたしは片思いばかりしていた。口が悪く気が強いから、男子たちからこわがられているということを、男子と仲の良い、親切な女の子が教えてくれたこともある。

 数人の女子が、強く印象に残っている。

 二人とも元々は明るくて人付き合いのいい生徒だった。二人とも、高校に入った時点で彼氏がいた。でも学校が違うせいもあってか、二年生になるころには別れていた。

 でも二人にはすぐに新しい彼氏ができた。そのとたん、二人とも人柄がガラリと変わってしまった。

 その二人が付き合った相手というのは、生徒会の役員だとか、中学時代バレー部でキャプテンをしていたりとか、リーダーシップのある男の子だった。

 そういう男子と付き合うようになると、彼女らは人が変わったように無口になり、友だち付き合いをまったくしなくなった。彼氏にべったりとくっついていた。まるで飼い主に従順な子犬のように、付き従っているというふうにしか見えなかった。

 そのうちの一人と、たまたま一度帰り道が一緒になったことがある。わたしたちは自転車で三十分かけて、国道沿いの側道を走って通学していた。

 わたしは彼女に、

「今の彼氏と付き合ってから変わったな」

 と、率直に言った。

「今の彼氏と付き合うまでのあたしはあたしじゃなかってん。今の子と付き合い始めて、彼氏の言いうことを素直に聞くことでやっと、ああこれがほんまのあたしなんやな、って思えるようになってん」

 彼女は高校を出てからその恋人と別れたと聞く。恋人と別れた彼女の心を埋めるのは、また新しい恋人なのだろうか?


 そう考えてわたしは、彼女らもわたしも、高校時代はうつろなものだったのではないか、という気がしてくる。

2014,04,21 20:35 了

四百字詰め原稿用紙 四枚

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エッセイ EMPTINESS 原稿用紙4枚 CHARLIE @charlie1701

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ