第8話 行間を読む
すみれ:『こんばんは、先輩』
根暗 :『こんばんは』
すみれ:『先輩、何していました?』
根暗 :『本を読んでいた』
すみれ:『もしかして先輩って、それしかしないのですか?』
根暗 :『山吹は何をしていたの?』
すみれ:『……本を読んでいました』
根暗 :『えっと? もしかして山吹って?』
すみれ:『ところで先輩』
根暗 :『露骨に話を逸らそうとするな』
すみれ:『先輩のその「根暗」ってアカウント名、改めて見ると笑っちゃいますね』
根暗 :『おい、君が笑うな。僕のスマホを弄っていた時に勝手に設定したくせに』
すみれ:『もともと暗そうな苗字だったのですから別に根暗でも良くないですか?』
根暗 :『何も良くないよ。どれだけ暗そうでも苗字は苗字であって、根暗はただの悪口だからね?』
すみれ:『先輩が明るくなればわたしだって根暗なんて言いませんよ』
すみれ:『今だってスタンプも絵文字も何も使わないし、いかにも根暗っぽいです』
根暗 :『君、さっきからちょいちょい自爆しているけど大丈夫?』
すみれ:『(F〇ck You! とウサギが中指を立てているスタンプ)』
根暗 :『何そのパンチの効いたウサギは』
すみれ:『ろっくんろーるウサギです』
根暗 :『へぇ』
すみれ:『可愛くないですか?』
根暗 :『ぅうん』
すみれ:『なんですか、その気のない返事は』
すみれ:『そんな素っ気ない返事ばかりだとさっさとやり取りを終わらせたがっているようにしか見えませんよ?』
根暗 :『僕の気持ちが過不足なく伝わっているようで嬉しいよ』
すみれ:『(F〇ck You! スタンプ)』
根暗 :『…………』
すみれ:『なんですか、「こいつラインだとやけにファンキーだな」みたいな沈黙は』
根暗 :『さっきから僕の心情を的確に読み取ってくるのなんなの? 行間読みの達人なの?』
すみれ:『なんですかそれ……』
すみれ:『でも、先輩の考えることくらいわかりますよ』
すみれ:『いつも一緒にいるのですから』
すみれ:『あ、別に他意はないのですよ?』
すみれ:『いつも先輩の考えを想像したりしているわけではないですからね』
根暗 :『そんなに連投されても拾いきれないから』
すみれ:『あ、すみません』
すみれ:『そうですよね。先輩はラインでのやり取りに慣れていないですからね?』
根暗 :『これは絶対に他意はあるよな?』
すみれ:『さぁ、どうでしょう』
根暗 :『君が僕の考えを読み取れるくらいには、僕も君の考えることをわかっているからね?』
根暗 :『……なんか、急に返事が来なくなったんだけど。既読は付いているから読んでいるよね?』
根暗 :『おーい、山吹?』
すみれ:『すみません、少々表情筋を鍛えておりまして』
根暗 :『何その特殊なトレーニング』
すみれ:『もう夜も遅いですし、このくらいにしておきましょう』
すみれ:『おやすみなさい』
根暗 :『あ、おやすみ』
すみれ:『あと、先輩が思っているほど先輩はわたしのことをわかっていないと思います』
根暗 :『あれ、終わってなかったの?』
根暗 :『……え、終わったの?』
*
スマホを置いて傍らの文庫本を再び手に取る。
それにしても唐突に終わったな。世の高校生のやり取りはみんなこんな感じなのだろうか。
……ぅうん、確かに僕には少し行間を読む能力が欠けているのかもしれない。
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