8.最強勇者の天敵
夜――
夜天には降ってくるような星たちと、ふたつの明るい月――
そして、異形の形をした月が浮いていた。
月明かりが、海を照らし辛うじて陸の形も分かる。
そこは島の人気のいない入り江だった。
船は徐々に行き足を止める。
そして、錨を降ろし停泊した。
そして、手動のウインチによって、小さなボートが降ろされた。
幅の広い縄梯子も同時に降ろされる
人影が網の様な縄梯子を伝い、船に飛び乗っていく。
その数は三人だった。
「ふふ、夜にこの場所なら、見られることは無いわ」
低いバリトンボイスの女言葉が響く。
「しかし、こんなところに人の住む島があったなんて――」
「海の全てが分かっているわけじゃないからな。魔族との戦争もあったしよ」
三人はボートに乗り込むとオールを漕いで、陸に近づく。
それは、元勇者ウェルガーの住む島であった。
◇◇◇◇◇◇
「ふ~ お風呂はいいなぁ…‥ やっぱり――」
ウェルガーは首まで湯につかり「ふぅ~」と息を吐く。
「アナタ、お風呂大好きですよね」
それは、チョコンとウェルガーの伸ばした脚の上に座っているリルリルだった。
彼の幼妻、種族はエルフで、年齢は一〇歳。
異世界でなければ、犯罪行為以外の何物でもない、いちゃらぶ生活を堪能している新婚夫婦だった。
(ああああ、可愛いよおぉぉぉ、リルリルぅぅ)
ウェルガーは、膝に乗ったリルリルをキュッと後ろから抱きしめる。
「あはぁ~ しゅきぃ♥、アナタにキュッとされるのしゅきぃぃ~♥」
幼いエルフの細く柔らかい肢体を湯の中で抱きしめる。
濡れた金色の髪の毛も、そそるモノがあった。
天空には星が輝く完全な露天風呂だ。
美しく幻想的な濡れたような光を放つふたつの月がここが異世界であること教えていた。
新たに出来た、三つ目の月は見ない。無視する。
月明かりに照らされ、白い燐光(りんこう)を纏(まと)ったような、リルリルのうなじにウェルガーは指を這わせる。
「あああ、くすぐったいのぉぉ。もう♥ キュッとして欲しいのぉぉ~」
夫に、抱っこをおねだりするリルリルだった。
「じゃあ、抱っこと、これはどうかな?」
「え?」
ウェルガーはリルリルの耳に舌を這わせたのだ。
長い耳がピクピクと痙攣し、朱色に染まっていく。
「あはぁぁぁ~ あ、あ、あ、お耳はぁぁ、エルフのお耳はらめなのぉぉ~」
同時に前に回した手が、ふたつの固くしこったポッチをクリクリする。
「あぅぅぅ―― らめぇ、アナタぁぁ~ お風呂で赤ちゃん作るのらめぇぇ~」
湯船の中で、荒い呼気に混じった喘ぎ声を上げるエルフの幼妻だった。
彼女は、夫といちゃラブするだけで、赤ちゃんが出来ると思いこんでいる。
しかし、彼女の身体はまだ、赤ちゃんを作るだけの準備ができてないのだった。
来ていないし、生えていない――
「もう、私を触って気持ちよくなったんでしょぉぉ~ あふぅぅ――」
エルフの細い脚の間から、ウェルガーの兇悪な武器が、突き出ていた。
「もう! 仕返し!」
幼く
「あゥゥゥ―― リルリルぅぅ~ あ、あ、あ、あ♥ もう、なんて、可愛くてぇぇ、好きすぎぃ! 愛してる。リルリル♥」
「ああ、アナタの愛がいっぱい出てきた…… すっごい…… なんか、変な気持ちになっちゃうのぉ♥」
ウェルガーのエルフの幼妻に対する思いは本来言語化などできないのだ。
「可愛い」「可憐だ」「綺麗だ」「愛している」「大好きだ」「離したくない」「絶対幸せにする」――
いくら言葉を口にしようが、その尾てい骨の底に生まれる炎のような思い。熱い愛。
それは、口からではなく、その愛の炎がドロドロに液化して、しかるべき場所から激しく吐き出すしかないのだ。
それは夫婦の愛だった。
「俺のいっぱいの愛―― 今晩もまだまだだからね」
お風呂でイチャイチャして、そしてベッドでもイチャイチャは続く予定なのだ。
「もう、あんまり滅茶苦茶にされちゃうと、明日、ラシャーラさんを迎えにいけないよぉぉ。あはぁぁ~♥」
以前は触るとくすぐったがっていた太もも。
今では夫の指が走ると、リルリルは頭が蕩けそうなほどの気持ちよさを感じるのだ。
それもウェルガーが自分をいっぱい愛しているからだと思っている。
「まあ、大丈夫だよ。お昼くらいにいけばいいし――」
「ねえ、お湯が温くなってきたし、もう出ましょう。続きは―― ベッドで」
「この可愛いエルフちゃんは、ずいぶんエッチになったかな? どうしてかな?」
「もう! だって赤ちゃん欲しいのぉぉ、ウェルガーの赤ちゃんがぁ欲しいのぉ♥」
キュッと対面で抱きついてくるリルリル。
(ハーレムなどいらぬ、チートも無双もいらん! リルリルさえいれば、俺はなにもいらぬ―― 命さえ…… 死ねる。俺は、リルリルのためなら死ねる――)
小柄なリルリルを抱っこしたまま、ウェルガーは湯船を出た。
湯船は最近作った物だ。
森を散策しているときに、ラッキーなことに、巨大な竹のような植物を発見したのだ。
その太さは50~60センチくらい。
節から節の間は1.5メートルくらいはある。
それを縦に割って、湯船を作ったのだ。
お湯は別に釜を作って、お湯を流しこむように作ったのだった。
これは、家の改造と合わせてついでにやったのだ。
「しかし、いいのか? ラシャーラと一緒に住むって…‥」
身体を拭きながら、ウェルガーは言った。
「だって、この島でふたりきりのエルフなのよ―― 身体がちゃんと治って仕事ができるようになるまでは、面倒みないと」
「優しいよな…… リルリルは」
「ねぇ、背中拭いてあげる」
「え、自分でできるけど――」
「いいのぉ、私が拭きたいのぉ♥」
そう言って、タオルというには薄い布を体に巻いて、リルリルは、夫の背中を拭くのであった。
(好き…… 大きな背中も大好き――)
リルリルはお腹の奥が暑くなるを感じながら、ウェルガーの背中を拭いていた。
勇者を引退しても、日々の肉体労働で、彼の身体は筋肉で引きしまっていた。
無理やり奇形的な筋肉を付けた身体じゃない。
精悍でバランスのとれた、肉体だった。
背中を愛する幼妻に拭かれながら、彼は自分の腹を見て思う。
(本当に、俺の身体かよこれ…… 健康診断で、なんども太りすぎ注意されたよなぁ)
元アラフォーのおっさんのだらしない肉体から隔絶した、男の理想像のような肉体になっているのである。
「まあ、彼女の部屋は造ったけど…… これからは、あんまり夜にあんまり大きな声は出せないよ」
「もう! 私はそんなにエッチじゃないですぅ。大きな声なんか出してないですぅ~ ちょっとだけだもん……」
「ま、いいけどね――」
食堂と寝室しかなかった丸太小屋に、ラシャーラの部屋も造った。
そもそも、それを造った余禄で、お風呂ができたようなものだった。
寝室とはなるべく離しはしたが、それでも夫婦の営みの声は聞こえてしまうだろう。
そもそも、ふたりにラシャーラに遠慮して、ベッドでイチャイチャするの控えるという発想はない。
それだけ、ふたりは深く愛し合っているのだった。
「しっかし、明日またミコニーソに会うのか……」
ラシャーラは今は教会で看病されている。
聖水ぶちまけの聖職者様であるが、確かに回復魔法も使え、その点の能力は問題なかった。
それ以外の部分では容姿を除けば、問題以外存在しなかったが。
「よっしゃ、今日はベッドの上で、思いきり声を出させちゃおうかなぁ」
そう言うとひょいっとリルリルをお姫様抱っこするウェルガーだった。
「もう、それじゃ私だって、アナタの愛をいっぱい出させちゃうんだからぁ♥」
そしてふたりはベッドに向かうのであった。
ふたりの甘い新婚の夜はこれから始まるのだ。
◇◇◇◇◇◇
「なんと言ったの?」
「いえ、エルフの女の子―― 褐色の肌をしたエルフの女の子を知らないかなって……」
「知らないわね。白い肌のエルフならこの島にいるのを知っているけど、どこにいるかは知らないわ」
三人の男と、ひとりの女が、街の近くで出逢ったのだ。
そして、男の内の一人が褐色肌のエルフのことを訊いたのだ。
それに対し、女は答えた。
それだけのやり取りだった。
女にしては長身だ。
スラリと伸びた肢体に、黒く長い髪の毛が地につきそうだ。
そして目を惹くのはその大きな胸だ。
胸元が大きく開いた服で、谷間を露わにしている。
その胸は、前に大きくつき出し、重力など関係ないというような感じでそこに存在していた。
大きく張りのある、重力に負けることのない、巨乳の持ち主だった。
美貌も飛びぬけている。
普通の男では、同じレベルの美人を思い浮かべるのが困難なほどの美形だ。
しかし、女として魅力的かというと、微妙だった。
凄まじい美人であるのに、人を寄せ付けないかのような雰囲気なのだ。
視線が理由だ。まるで、視線が抜身の刃のようだったのだ。
いわゆる「ガンを飛ばしている」様な目だ。
デフォルトでその目つきであった。
話は終わった。普通はこれで終わりだった。
「なんで、褐色肌のエルフの娘を探しているの?」
目つきの鋭い女が言った。
「あらぁ~ そんなことアンタが首を突っ込むことじゃないのよぉ。もう、分かったからとっと行って」
筋肉身体がパンパンに膨れ上がった男がバリトンボイスのオネェ言葉で、挑発した。
手で動物を追い払うかのような所作も明らかな挑発だ。
「ほぉ~ 探られると嫌か…… 奴隷商かなにかなのか?」
切れるような笑みを浮かべ女は言った。
「うるせぇ! じゃあテメェはどうなんだよぉ!」
背の高くひょろりとした男が言った。
「兄貴ぃ、この女もなんか捜してんだろ? 何で探してんだよ。言えんのかよぉ」
小太りの背の低い男がそう言った。
「弟子に会いに来たのよ―― 弟子がそのエルフと結婚したのよ。そしてこの島にいるって聞いたからきたの」
不機嫌丸出し、ぶっきら棒に黒髪巨乳の女は言った。
「アンタたちは? やっぱり奴隷商?」
「ま、似たようなもんさ」
ひょろりとした男が言った。
「余計な事言うんじゃないわよ。このバカッ」
「すいやせん! 姐さん!」
筋肉だるまのような男は「姐さん」と呼ばれていた。
要するに、マッッチョなオカマ野郎だった。
「ふーん…… ま、いいわ。せいぜい探しなさい」
女は長い髪を揺らし、踵を返した。
「なんだあの女―― くそ、やっちまえばよかったのに!」
「そうっすよ。生意気な女をヒーヒー言わせるの、兄貴は大好きっすからねぇ」
去っていく女の後ろ姿を見ながら小太りの男が言った。
「ふんッ、無理よ、あんたちじゃ―― 私だって危ないわ…… やだやだ、おっかない女――」
マッチョなオカマは吐き捨てるようにそう言った。
◇◇◇◇◇◇
「へックシッ!」
ウェルガーはくしゃみをした。
狭い食堂に大きな音が反響した。
大きなくしゃみに、ラシャーラはビクッと反応した。
「もう、湯冷めして風邪ひいたんじゃないですか?」
リルリルがちょっと口をとがらせて言った。
昨日、夫のウェルガーにベッドで散々乱れさせられてしまったのだ。
「らめぇ、やめてぇ、へんなのぉ♥、まっしろになりゅぅぅ♥」と言っても止めてくれなかったのだ。
そして、彼女はエッチなことをしているときの自分の声が結構大きいことに、初めて気づいのだった。
「何か、寒気するし…… 本当に風邪かなぁ…… 風邪なんか引いたことないんだけどなぁ――」
「あの、具合が悪ければ、ミコニーソ様の教会に行かれた方が――」
「いやいい。絶対にいいです」
ラシャーラの言葉に間髪入れずお断りの返事をするウェルガーだった。
(それにしても、やっぱ似てるわ……)
何度となく思ったことをここでも思う。
今、食堂のテーブルの対面に座る、ラシャーラを見やって思う。
他人の空似なのかもしれないが、妙に気になるところではあった。
今日から、この家に一緒に住むことになった褐色肌、銀髪のエルフの娘だ。
やっと、歩けるだけ回復し、ウェルガーとリルリルの新婚家庭に居候することになったのだった。
それまでは、治癒魔法が使える戦闘修道女のミコニーソの教会に寝泊まりしていた。
彼はブルりと再び身体を震わせた。
「なんか、本当になんだこれ? この寒気…… 何か記憶になあるような……」
「やはり、教会に行かれた方が……」
「だから、いい―― アッ!!」
ガターンと椅子を倒し、元勇者ウェルガーは立ち上がった。
顔が真っ青になり、ガクガクと震えていた。
分かったのだ。この寒気の原因――
「来た―― 師匠が…… やべぇ……」
彼は呻くようにそう言ったのだった。
勇者の力――
それを封印し、引退したこと。彼はそれを師匠に伝えていなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます