ぺしこさんは罰当たり
春紫音
第1話 その能力にうっすらと気づく
コンビニから出てきたところで、ちょうど信号が青になった。自動ドアから出てそのまま目の前の横断歩道に直進する。信号が赤か青か、そんなちっぽけなタイミングで、ぺし子は毎日運がいいとか悪いとかを確認したりする。
「今日はまずまずだな。」そう思って横断歩道のシマシマに一歩踏み出したとたん、右から来た白いスポーツカーっぽいやつが(ぺし子は車の種類に疎い)ギュイーンと目の前を横切ってコンビニの駐車場に入ってきた。
ぺし子が「げっ」と声を飲み込んでから0.5秒後「どけ、ババア!」という怒号が聞こえた。ぺし子は、その0.25秒後に「死ね」と心の中で悪態をつき、さらに0.25秒後に背後でどすん!という音がした。振り返ると、駐車してあった青っぽい車(ぺし子は車に疎い)に白い車が突っ込んでいた。ぺし子は「あらま」と口もとを手で押さえ、そのままニヤリと笑った。
ぺし子は、決して性悪なオンナじゃない。50才を半分ほど過ぎた今も、ちょっとだけ自意識過剰なごく普通のおばさんである。化粧しないと非常に残念な状態であるが、そこそこ力をいれてメイクアップすれば2歳くらい若く見える(と本人は思っている)。必要以上に人の悪口は言わないし、ネガティブな言葉はなるべく使わないように気をつけている。汚い言葉を使うと運が逃げていく、という考えをぺし子はかたく信じていたからだ。ちょっと嘘くさいんじゃない?と言われても「世のため人のため」という美しい建前を掲げ、世界善人選手権の代表として宣誓するほど、ぺし子は純粋な善人なのだ。。
・・・で、話をもとに戻すと、白い車がドスンとぶつかって「あらま」と言ってニタリと笑ったそのあと「死んじゃった?」とぺし子はすこし不安になった。理性が止めるまもなく口から出てしまった「死ね」という言葉に、なんだかとてつもないエネルギーが宿っているような気がしたのだ。
運転手は死んでなかった。ぶつけられた青い車にも人は乗っていなかったから、白い車のおっさんは過失致死罪に問われることはないけど、賠償だの何だのって、メンドクサイことになるんだろうな。ざまぁ…と言いかけてやめた賢明なぺし子だった。あのおっさん、罰が当たったんだねと、ぺし子は納得した。
醤油せんべいとビターチョコレートが入ったビニールの手提げ袋をワシャワシャ振り回し、ぺし子は鼻歌を歌いながら横断歩道を渡った。
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