「そのウサギ凶暴につき」

「いや…」


虹色の膜から、やっちんを引き剥がそうと

僕とユウリも必死に引っ張るが、

何をどうしたのか、やっちんの体は引き抜けない。


エレベーターのウサギはスウっとこちらを向くと、

ついで周囲をキョロキョロする。


「も、もしかして、

 こっちに気づいていないのかしら?」


ユウリが希望的観測を口にする。


…だが、それはすぐに裏切られた。


たんっ たんっ たんっ


なぜか垂直飛びを始める

エレベーターいっぱいの巨大ウサギ。


どうしてこんなに重そうなのに、

体が簡単に持ち上がるのか。


たんっ たんっ たたんっ…!


そして、僕は見た。


巨大なウサギがエレベーターの壁を使い、

三段跳びをするところを。


駐車場の端から端まで、

僕のとこまで一瞬でやってくるところを。


それは、走馬灯のようだった。


全てがスローモーションのように感じ、

目の前に迫るウサギのふわふわとした毛並みは、

とても作り物ではなく生物の質感のように思えた。


ついで、ガバリと開く口。


無数の歯がヤスリのように並んでいて、

その喉の上に一瞬、目を閉じた人の顔が見えた気がしたが、

それが何か確認する前に僕は後ろへと引っ張られる。


「何、ぼさっと見てるのよ!死にたいの!?」


引っ張ってくれたのはユウリであり、

同時に僕は尻餅をつく。


そしてウサギは勢いそのまま、

思い切り膜へとぶつかった。


ズオンっ


「うおっ」


その衝撃か、とっさにやっちんの体が抜け、

逆にウサギの半身が膜につかまる。


だが、それは一瞬のこと。


膜はウサギの体を中心に溶けていくようで、

ウサギは体勢を立て直そうと地面に足をつける。


…その時、僕は見た。


ウサギの耳。


その耳の内側にウサギの模様をかたどった

凸面と思しきものがあることを。


それに呼応しているのか、

キューブにそのマークが浮かんだこと。


同時に、僕はキューブを手に持ち、

ウサギに近づくと凸面側の耳をつかみ、

思い切り、キューブを押し当てた。


『ぎゅおおおおおおおおおお!』


耳をつんざく凄まじい叫び声。


同時に、ウサギは後ろへと倒れていき、

僕だけではなく全員のキューブとスマホが輝きだす。


『おめでとうございます!

 大食いウサギ、スタンプクリアです。

 ただいまを持ちまして本日のスタンプは完了です。』


そして、女性の声が消えると同時に、

僕らの意識は遠くなっていき…

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